第一巻 強制退場8
「ごめんなーさーい。私の手がリアール過ぎましたねー。アイムソーリーヒゲソーリー。大丈夫大丈夫!貴方様は勘違いをさーれているだけですよー」
「え……?」
凄く古いネタと『勘違い』という単語に先程まで溢れる様に流れていた涙が思わず止まった。
このカボチャピエロは何を言っているんだ――?
全くと言っていい程にこいつのテンションと内容についていけずに茫然としていると先程、俺の頭に置いた手に力を込める。より一層、人の骨を感じさせる行動にまた肩を大きく跳ねさせたが、カボチャピエロはそんな俺に今度は優し気な落書き顔で声を掛けてきた。
「少しだけ我慢してください。人間にとってこの手は恐怖そのものかもしれませんが、決して貴方様には害はありません」
「あっ……」
おちゃらけていたカボチャの口調が変わった。
「ほんの少し、貴方様を見させてもらいます」
「―――!?」
刹那、目の前が―――
目に映るものが変わった――!
カボチャピエロの言葉を合図に、パソコンのシャットダウンのように全てが真っ暗になる。
あいつは―――?
また変なところに飛ばされたのか――?
脳がこの状況を乗り切ろうと再び必死に働いているのがわかる。でも、受け入れがたいこと続きで脳は理想とする働きはしない。また混乱の渦に落とされるのか――-と思った。
その時だった――。
……光――?
真っ暗な世界の奥から光が見える。
その光は何枚もの帯となって、こっちに向かってくる。
いや―――、帯というよりか……
映画の、フィルム――?
そう、フィルムが此方へと向かってくる。
一つ一つ七色以上の光を纏って――。
「……!?」
驚くのも無理は無い。
何せ、そのフィルターには自分の家族や友人、先生とこの人生で知り合い、触れ、思い出を、人生を共に作り上げてきた者たちが写っているのだから。
俺は――?
自分がいない。流れてくるフィルターには自分の姿がない。しかし、数秒で気付く。
あぁ、これは自分の記憶なのだ―――、と。
すべてが自分の目線で見ていた光景だと分かった。まるで、漫画やゲーム、ドラマで見るアレに近い。いや、アレなのだろう。
走馬灯――。
死んだ者にはぴったりだ。ただ、カボチャピエロの手に触れた時みたいに恐怖はない。気分がいい。あの世界に生まれて、親、兄弟に愛情を貰って生きてきた。死んでから気付くなんて。ホントに馬鹿は死ななきゃ治らないんだなぁ。
今、脳は理想とする動きをしているのかもしれない。
もう、どうでもいい。
ただ、この時間が続いてくれればいい。
思い出に、過去に浸っていたい。ずっと見ていたい。
自分は生きていたんだ、と。
ずっと、ずっとずっとずっとずっと―――。
「はーい。終了でーす」
走馬灯ではありませんが、自分の人生を振り返った時、
私は人生という道を何キロ歩いたのだろうと思うときはあります。
それによってどれくらい足腰を鍛えられたのだろうかと思ったり思わなかったり、と。