第一巻 強制退場6
「い、嫌だ!なんで!い、嫌だよ!お、おかしいだろ!なんで!なんで俺が死ななきゃなんねぇんだよ!ど、どうして!おかしいおかしい!」
全てを思い出しても、理解したくなかった。いや、理解も納得なんかもするものか。
目の前にピエロカボチャがいるのも忘れて、思い出した現実を否定するように大声で叫び始めた。頭を抱えながら左右に振り、眼をかっ開いて全力で否定、真実を拒絶する。
「嘘だ嘘だ嘘だ!!俺は死んでない死んでない!!」
だって、そうだろう。俺は何か悪いことをしたのか。いつも通りの日常を送って、普通に生きていたはずだ。普通に生きていたんだ。確かに必ずしも「聖人」と言われるような人生を過ごしていなかったかもしれない。悪い事だと分かっていても小さい事だと思ってやってしまったこともある。だが、それは自分の死に匹敵するような重い事でもない筈だ。俺は人殺しも強盗も詐欺も暴力も虐めも何一つしていない。
どうして、どうして――!?
口では死への否定、脳内では死への疑問をずっとループさせる。その過程で一瞬、脳内にて昔、「英雄は早く死ぬから英雄になった」と誰かが言った言葉を思い出すが、そんなもの遥か彼方に吹き飛ばした。
死の理由を知っても、死を受け入れたくない。
「死んでないんだ!!」
「おやー?おーやおやおやおやおやー?」
「っひ!?」
ただただ否定と拒絶と疑問を繰り返していた俺だが、目の前のカボチャピエロの存在を忘れていた。急に、骨を鳴らしながらその落書きの顔を俺の目と鼻の先に近づけてきたことで間抜けの声を上げてしまった。
「これはーこれはこれは。何とーも、珍しくおかしなお方ですねー。」
俺に存在を再確認させたカボチャピエロは顎に当たるであろうところに手をあて、落書きの顔をかしげる。気のせいでなければ、落書きがさっきと違うような気がするが今はそんなことではない。突然、視界いっぱいに広がった不気味な顔に俺はまた肩を跳ねさせながらも虚勢を張る様に大きな声で言葉を返した。
「お、おかしいのはアンタだろ!」
「あっはっは!確かーに、この格好はよくおかーしいと言われますねー!んー、でも〝彼女〟は違う意味で『おかしい』とおっしゃーってーまーしたーねー」
「そんなこと、知らねぇよ!」
「はっはっは!知らなーいのは当たーり前ですねー。これは私と〝彼女〟の思い出ですかーらー」
所々が伸びる独特の話し方。まるで、突然の死に襲われて人生を強制的に奪われた俺を馬鹿にしている様に聞こえる。先ほどまで感じていた『怖い』という気持ちをそのままに『怒り』をも同時にが湧き上がらさせる程に。
「笑うなよ!!」
手に力が入る。どんな存在なのか全く分からないのに、触れて大丈夫なのかもわからないのに。この湧き上がる気持ちをこのカボチャピエロに殴ってぶつけたくて仕方がない。
どうして自分は死ななくてはならなかったのか?
くだらない愚痴を心で呟いてしまったからか?
それなら、いくらでも反省する。
毎日学校でもバイトでも手伝いでも料理でも人助けでもなんでもやる。
だから、俺は――!
「ちょっと、失礼しまーすねー」
人間、怖いという状況が続くと狂暴になる人がいますよね。
きっと、「攻撃を受けたくない」「傷つきたくない」と怖いからこそ先に攻撃を。
先手必勝の様に。安心したくて攻撃したくなるんでしょうね。