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美しくも脆き世界  作者: 乃蒼・アロー・ヤンノロジー
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第一巻 強制退場4


 その日の俺も普通にアイフォンの音に起こされ、母親の料理を食べて登校して、授業を受けて、友達と喋ってといつものサイクルを繰り返していた。

 嫌になる程の悪いことも無く、だからと言って特別に良いことも無い、普通の日常のループ。

 あ、でも特別ってわけではないが、昼の弁当に好きな冷凍食品が入ってたことは小さな幸せってわけで良かったと思う。女子みたいにおかず交換なんてことはしないで、自分のだけどガツガツと独り占めするよう弁当を平らげた。

 最後の時間で行った数学の小テストもいつも通りな感じに終えて、授業が終了。さぁ、部活の無い俺は友達とも遊ぶ約束をしていないからこのまま帰宅して、いつものダラダラタイムに突入することになるわけだ。新曲や新刊や新ゲームが発売しなければ一人での買い物なんて行かない。

 この前も「若さが勿体無い!」と母親は嘆いていたが、自分が良ければそれで良し。何度も言っているだろう、母上よ。若さは兄が全力で使って満喫している。兄弟二人に求めるなんて、二兎を追う者は一兎をも得ず、だ。

 そんな屁理屈を心中で述べながら、今日も俺は俺なりの学校内青春を終えて学校前で帰宅のバスを待っていた。この学校の特徴、その一「バス停が校門前にあること」。寒い冬なんかは本当に楽だと思うであろう距離だ。

 アイフォンにジャックを差し込んで、コンパクトなイヤフォンを耳にかける。指で画面をスクロールしてお気に入り、人気バンドTSUBAMEの曲を選ぶとイヤフォンからリズミカルな音が流れてくる。好きな曲を聞くと人間、そのテンポに合わせて身体を動かしたかったり鼻歌どころか歌い出す人間もいたりするもので。実際は恥ずかしいのでやっていないが、気分は上場。今度カラオケ行ったらコレ歌おう、というか明日友達とカラオケ行こうかなぁと、曲一つで予定を立てることだってできる。

 暫く、お気に入りの曲をエンドレスで聞いていると目の前でバスが止まった。目的地を見ると自分の家と同じ方角に向かうバスで、しかも運よく前の列に並んでいたために座ることが出来た。このバスは俺の学校から混み始めて下校ラッシュとなるため、座れるか座れないかは生徒玄関を素早く出たか出なかったで決まるものだ。因みに俺の座れる勝率は大体五割。

 小さなラッキー。ゲットだぜってね。


 偶にバスの大きな揺れに合わせて身体が動くがそれもいつも通り。

 徐々に人が減っていくタイミングも、落ち着く混み具合もいつも通り。

 自分の降りるバス停が後もう少しであると確認し、いまやっているゲームクエストを何とか到着する前に片づけようと耳をバスアナウンスに、眼を画面に、指を操作に集中させる。

 このまま戦いが終われば、ミッションクリアのクエストコンプリート……!!

 慣れた指使いでキャラクターを動かしていき、もう少しでクエストボスを倒せる。こっちのHPも残り少ないが、いまの一撃でキャラクターの下にあるゲージが満タンになった―――。

 よし、喰らえ―――!

 使用キャラクターの必奥義。画面一杯にキャラクターが舞い、大々的に技が炸裂する。ヒット数にダメージ数はどんどん跳ね上がり、最後にはキャラクターのカットインが映し出された。

 そして、次に浮かんだのは―――――『QuestClear!』の文字。

 その文字に俺は心の中でガッツポーズを決めた!





 ――――次の瞬間、





 ドガララガシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンン!!!!!



 一瞬、何が起きたのか分からない。

 いや、本当は分かっていたのかもしれない。

 だけど、脳が「理解したくない」と悲鳴を上げたのかもしれない。

 ううん、その表現は可笑しい。脳は思考停止したに違いない。


 いままで体験したことない大きな揺れ。

 それによって生まれた大きな音。

 人が目の前で飛んだ。


 たった一瞬だ。

 だけど、その一瞬で、一気に外部からの大量な情報が俺の身体に流れてきた。


「――――っ」


 さっきまでただ座っていたゲームしていた身体は、もう自力では指一本動かすことが出来ない。

 指どころか瞼すら上げる力も奪い去られていく。

 「誰か!」「救急車!」と救援を求め声も聞こえるのだが、遠くに聞えてくる。






 あれ、俺はどうしてたんだっけ?

 さっきまでゲームしてたよな?

 なんか頭がクラクラしてる。

 学校行って、授業受けて、それで今学校が終わって、それでゲームして。

 何処行こうとしていたんだっけ?

 あぁ、家に帰ろうとしていたんだ。

 また、母ちゃんにグチグチ文句言われるんだろうなぁ―――

 メンドクサイなぁ――――

 あれ、何か、次はボーッとしてきた―――?

 なんか、眠いし――――

 このまま、寝てもいいかなぁ……――――

 あ、飯いらないって言っとかないと、また、怒るかなぁ……―――

 まぁ、いいやぁ……飯の時、起こしてくれるだろ……――――






 あぁ―――


 本当――――



 眠いやぁ――――――


 

 

実際に。急な死が人を襲った時、人は記憶が飛ぶのか、混乱するのか。

日常がその日、突然非日常となった時、人の脳は停止するのか暴走するのか。

訳の分からないまま、この世を去ることは想像するだけでも怖いと私は思います。



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