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美しくも脆き世界  作者: 乃蒼・アロー・ヤンノロジー
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第一巻 強制退場3再編集:2025/4/10


 俺はまだ生きている———!!


「あぁ……あぁぁああ‼︎」


 また涙が溢れてきた。だがそれは恐怖による涙ではない。言葉では表せない喜びがいま自分の中にドッと波のように身体の内側から押し寄せてくる。

 泣くことは生者としての特権だ。自分勝手で迷惑なんて知るものかとでも言うかの様に大声を出して泣いてやる。


「ど、どうしたーのですかー!? まーたー泣いて!?」


 また急に泣き叫び始めた俺にカボチャは焦った声を上げる。落書き顔も焦った表情の絵に変わっているかもしれないがカボチャの表情を気にしていられるほど俺には余裕がない。俺は自分が満足するまで喉の奥が熱くなるのも無視して感情を爆発させ続けた。


「あーあーもう。わーかーりまーしたーよー! 泣きなーさーい泣きなーさーい、思う存分泣きなーさーい! 確かに私も最初に言わなーかーったーとこなーど悪いところが沢山あーりまーしたー!」


 観念したようなカボチャの声に続いてポンっと可愛い音が聞こえた。この空間では発生することのない音に思わず俺は泣いた顔のままカボチャの方へと顔を向けた。いつの間にか合わさっていた骨の手と手。その二つの手を左右に伸ばすように腕を広げて離していく。

 するとその間からステッキが伸びる様に現れてきたではないか。

「え……?」

 突然の手品?に驚いて涙が引っ込んだのがわかった。腕を限界まで伸ばすことで完全に現れたステッキをカボチャは宙で掴み取って軽く振う。またポンっと可愛い音が聞こえたと思ったら今度は蒸したタオルと水のペットボトルが俺の目の前に宙に浮かんで現れたではないか。


「ほら。それらで顔を拭いて水を飲んで体内の水分と喉を回復さーせてくださーい」

「あ、ありがと……」


 普通に生きていれば起こるはずのない出来事に戸惑いながらも素直にそれらを受け取って泣き腫らした目に蒸したタオルを乗っける。


(気持ちがいい……)


 涙でベッタベタの顔を拭いたら続いて水のペットボトルの蓋を開ける。一瞬毒が入っているのではと警戒心を持ったが日本で有名なメーカーだったことと……何よりこのカボチャが本当に心配そうに眉を下げた落書き顔で俺を見ていたのでこれを突き返したら申し訳ないと思った。

 あんなに不気味だと思っていたのに。落書き顔から優しさを感じることができた俺はその感性を信じて水を飲んだ。有名メーカーのものだからか、それとも二度と飲めないと思っていた水飲むことができたからか。途中で止めることなく一気に飲み干した。


「へへ……」


 過去の俺は思わなかっただろう。空になったペットボトルがこんなに嬉しいと思う日がくるなんて。


「もう一杯飲みまーすかー?」

「ううん。大丈夫」

「そうですか。では片付けましょう」


 俺の返答にカボチャ嬉しそうに何度か頷いた後にステッキを振った。また可愛らしい音が鳴して使い終わったタオルと空のペットボトルが宙へと消えた。ここでようやく可愛らしい音はカボチャが出していたことに気が付いた。


「あの……ありがとう……」

「どいたーしまーしてー」


 湧き上がる想いを爆発させ切ったことで頭が段々冷えてきて物事を考えられるようになった。この全方向真っ暗な空間についても。カボチャの手品……というよりも最早「魔法」って呼んでいいだろう。何もない所から物を出すだけでなく人の記憶を読み取る能力についても驚きが隠せない。

 生きていることがわかって嬉しかったが此処は自分の世界ではない。これは『異世界』とでもいえばいいのだろうか。自分の常識が通用しない空間をそれ以外の言葉で表現することが難しかった。


(それにしても……)

「どうしまーした?」


 目の前にいるこのカボチャ。最初はあんなに人をバカにしていたような態度だったが『何か』が違うと分かってからはもしかして俺のことで悩んでくれていたのではないか、と思う。先程だって放っておいてもいいのに泣き出した俺を心配してくれただけでなく落ち着ける様に蒸しタオルと水を与えてくれた。


(コイツ実は良い奴なのか?)


 こんな状態で良い奴も悪い奴もないが。それでも信用出来る奴であるかどうかは判断しておいた方がいいだろう。

 でもその前に。人として言うべきことがある。


「なんか……いろいろと迷惑を掛けてすみませんでした……」


 迷惑をかけたのは事実なので謝罪をする。

 人生で初めて人外にする謝罪だ。あとで振り返ってみると凄い体験をしたなぁと思うだろう。


「おーやおやおやおやー。礼儀が正しいですねー。さーっきとは大違いだー」

「大変申し訳ございませんでした」

「冗談でーす。君がーとても良い子なのはー記憶を見てわかってまーしたーよー」


 そう言って俺の頭に手を置こうと手を伸ばしてきた。多分頭を撫でるつもりだったのだろう。だが、その手は頭に触れる寸前で引っ込められて代わりにニッコリとした落書き顔に変わった。先程俺がその手に恐怖したのを思い出してやめてくれたのだろうか。その優しさに申し訳なさを感じてしまう。


「私こそ貴方様に許可なーく勝手に触れて過去を見てしまーって申し訳あーりまーせんでしーた」

「確かにびっくりしたけど……何かを確かめるためだったのかな? それならいいよ」


 人間って余裕があると人を許すことができるんだなぁと改めて思う。いまこの状態で自信を持って「余裕がある!」と言い切れるわけではないけど。それでも『生きている』という真実があるだけで少し優しくなろうと思えた。


「そうですかー。優しいのですねー……」


 俺の言葉に何故かカボチャの顔が驚いた絵を浮かべ……でもすぐにほほ笑んだ落書き顔へと変えた。


「いやあんたが優しくしてくれたからだよ」

「その言葉が優しいのですよー」


 なんだか照れ臭くなってしまう。


「……そうですか。では貴方様のたーめに本題に入りまーしょー」


 そう。ここからが本題だ。


「ここは何処って話もあるし。……いやその前に」

 

 確かに俺は生きている。

 だが、《《それがおかしい》》。


「俺は確かにあのときバスの中にいて事故に巻き込まれた。痛みだって感じた。なのに、()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 あの時大きな衝撃を受けて俺は腕と頭に痛みを感じた。ならば少なくともこの二箇所に怪我がなければおかしい。

 そんな俺の質問にカボチャは目を瞑って考えるような落書き顔を浮かべて暫く黙った後に声を発した。


「そうですねー。貴方様の持つ疑問全てを答えらーれるかわーかりまーせんがー。私が伝えるべき答えを教えしまーしょー」


 コツーン———


 カボチャがステッキを地に一突きして音を空間に響かせる。するといままで真っ暗だった世界に一つの映像が宙に映し出された。


「わぁ⁉︎」


 突然現れたことに驚きながらも映像を確認してみればそこには見覚えのあるバスが一台。下校時にいつも乗車しているバスが転倒している状態が映し出されていた。


「貴方様は確かーにこちらーの交通事故に巻き込まーれまーしたー……しかし」


 コツーン———とまたステッキを地に一突き。映像が変わって今度は転倒したバスの中が映し出された。そして拡大されるとボロボロに倒れている俺が画面いっぱいに映し出された。その光景に「ひっ!!」と情けない声を上げる。突然事故にあった自分の姿に見たことで顔が引き釣ったが、すぐに映像の中の俺が()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに今度は目を見開いた。


「あれ? 俺は?」

「その貴方様がここにいるのですよー」

「えっ!?」


 驚いて思わずカボチャの方へと顔を剥ける。


「『我が主』様が貴方様を此処の空間に喚び出したーのですー。その時の空間移動の影響で貴方様の受けた傷は全て治さーれたーのですよー」

「つまり……俺は召喚されたってこと?」

「そうなーりまーすー」


 そんなことがあるのか。確かに『異世界』と表したが。この何の取り柄もない普通の男子高校生である俺がそんなラノベみたいなことに巻き込まれたっていうのか。


「……ちなみになんだけど。元の世界に帰ったら怪我とか戻ったりする……?」

「いえ。戻ることはーあーりまーせんよー。時空を超えたー時点で傷は全て完治さーれてまーすかーらー」

「なら帰してくれ。元の世界に!」


 主人公だろうが引き立て役Aだろうが異世界の登場人物になるなんてそんな大業お断りだ。帰らせてくれ。早く帰って馬鹿にされてもいいから家族に抱き付きたいんだよ。というか戻ったらすぐに周りの人を助けてなければならない。怪我が治っているのならば自分はすぐに救助活動を行えるということだ。この奇跡を命を助ける奇跡に繋げるためにもカボチャへと必死に懇願した。


「……申し訳あーりまーせん。私にはー貴方様を返すことはー出来まーせん……」

「え……?」


 カボチャの返答に俺は困惑する。


「できない……? え、どういうこと?」


 カボチャは眉を八の字にした申し訳なさそうな落書き顔で話し続けた。


「『我が主』様は私にそのようなープログラムを組み込んでくだーさーらーなーかーった。私に与えらーれたー使命は此処へ来る皆様へこれかーらーの説明するプログラムだけ」

「な、なんだよそれ!! じゃぁその主様とかにに言ってくれよ‼︎ 戻してくれって‼︎……そうか上司だから言えないのか‼︎ なら俺が言うから‼︎ それならいいだろう⁉︎」


 帰りたい一心であんなに怖がっていたカボチャの身体を掴んで俺は大きく揺さぶった。だけどカボチャはその頭を左右に振った。


「申し訳ござーいまーせん。『我が主』様への転送先も私にはープログラムさーれておりまーせん」

「ウソ……だろ?」


 帰れない。

 生きていても。あの日常に帰れない。

 生きていても。もう二度と皆に会えない。


「冗談だろう? なんで俺がこんな目に合わないといけないんだ? 怪我を治してくれたのは感謝してるけど……でも帰れないなんてありかよ……」


 此処で一生生きていろとでもいうのか。寿命を迎えるまでこんな何もない真っ暗な世界の中で生きていけっていうのか。それでは死んでるいることと同じではないか。

 見えた希望の光に手を伸ばしていたのに無情にも再び暗い地面に叩き落とされる感じだ。それもさっきよりも深く真っ暗な奈落の底に。


 俺は『我が主』と呼ばれる奴に『死』に等しい世界に閉じ込められた、ということだ。

 希望を見てしまったせいでその闇は深くて。もう涙すら流すことも出来ない。


「……いえ。()()()()()()()()()()()()()()()()


 ……だが。このカボチャは又しても、絶望に襲われる俺を守る言葉をくれたのだった。


「チャンスって……帰れるチャンスか⁉︎ あるなら教えてくれ⁉︎」


 絶望で胸が張り裂けそうで早くこの苦しみから抜け出したくて必死に言葉を紡ぎ出していく。言葉には力があると言われている。俺の言葉にどれ程の力が宿っているのかなんてわからないが、それでもカボチャに詰め寄ってに俺の願いを吐き続ける。


「お願いだ‼︎ 帰らせてくれ‼︎」

()()()()()()()?」

「……えっ?」


 いま何をカボチャは言ったのだろうか。

 一瞬理解ができずに時間が止まったように思えた。


「比喩でもあーりまーせん。そのまーまーの意味、『命』を懸けるお話ですー」


 カボチャの口から再び出てきた『命』という言葉に俺は無意識に心臓の上へ手を置いた。

 ドックンドックンと鼓動が手に伝わってくる。本当にあの事故の後に助かったのだと実感する生命の振動。

 だけど。この助かったこの『命』を懸けることになるとカボチャは言った。衝撃的な言葉に俺は何も言うことが出来ないままでいるとカボチャはステッキを振るって映っていた事故の映像はぷつりと消した。


「では、『命の懸け』を含めてお話の続きをしまーしょー。……何故貴方様がここへ喚ばれたーかも含めてー……」


 そしてピエロは言葉が終わるとステッキを再び地へと一突き。


 コツーン———


「……わぁ‼︎」


 音を合図に突然真っ暗だった世界が俺達を中心に全方向に明るくなった。その変化に目が追いつかずに目が眩む。手で守るように目を隠して瞼を強く閉じた。


「ご紹介しまーしょー。こちらが《《貴方様が行くべき世界》》———『美しくも脆き世界』」


 強い光に何度か瞼を開いては閉じてを繰り返えす。その度に瞳孔が段々と入る光の調節を行うために小さくなっていくのがわかる。


 何が美しいのか。その答えを確かめるために目を擦りながらも懸命に俺は再び目を開いた。


「……‼︎」


 ホログラムだろうか。足元にはコンクリートでできた高い建物も意味もない看板も捨てたゴミも何もない。大自然がそのまま作り出す緑と青の輝く美しい世界が大きく広がっていた。


「はぁ……!!」


 思わずその美しさにため息が出てしまう……だけどそれほどまで風景だ。大樹と表現するに相応しい木々が広がりその上空を優雅に鳥が飛んでいる。いくつにも繋がる険しい山々の先に残る真っ白な雪。その雄大な草原にはいくつもの大きな川が見つけられてそれらは世界を囲む大きな青き海にと流れていく。そして最も強い印象を与えるのは天から降り落ちてくる中央にある大きな滝とその側に描かれる大きな虹だ。


「幻想的だ……」


 住んでいた田舎町も自然は身近にあったが、こんな綺麗だと感じたことがない。まるで自然の理想を絵に描いたような風景に意識が持っていかれそうになる。


 これが『美しくも脆き世界』。

 まさにその名の通りの美しい光景だ。あまりの感動に言葉を失ってしまったが、ふっと気になってしまった世界の形に俺は思わず呟く。


「コマ……?」


 そんな風にしか表現が出来なかった。映し出された世界は俺の出した単語にぴったりな日本の伝統的なおもちゃの『コマ』の形をした大地が空に浮かんでいるように見えた。


「『コマ』とは見事なー表現ですねー……そして、《《悲しい言葉》》ですねー」


 俺の思わず溢した表現にカボチャは拍手を———両手でカポカポと可愛らしい音を鳴らしてた。


「この世界は貴方様の世界とは違ーい、球体ではなーいのですー。昔、地球の人々がー『海は何処かで終わっている』と想像したー世界そのままなーのですよー」

「あぁ確か中学生の時に社会科で先生がそんな言っていたような気が……? 世界が球体であると証明される前は人々は海の最果ては滝になっているって」


 まだ球体だと知らなかった時代。危ない旅を続けて世界の真実を暴いた冒険家が現れるまで信じられていたお話。まさか地球ではなく違う世界にてその昔の考えが正解だったなんて誰が想像できたものか。


「じゃぁこの世界の海が減らないのはあの滝のおかげなのか」


 世界を囲う海はコマの端にまで広がるとそのまま滝となって流れ落ちていつのまにか消えている。そしてそれらを補う大量な水を地面に叩きつける滝。あの真下にいたら確実に怪我だけでは済みそうにない。そんなことを想像して勝手に背筋が凍る。


「そしてその滝の水を生み出しているのが彼処でーすよー」


 そう言ってカボチャが指差す先はコマの世界の中央。大きな滝が二つに分けられる間にそびえ立つの古き巨大な搭。


「水を生み出し、私を作り出し、世界を生み出し、貴方様をお呼びしたお方。またの名をこの世界に君臨する創造主———『神』と呼ばれるお方あらせられる塔です」

再編集:2025/4/10

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