3-13 黒毒
短いです。
どこか薄暗く、陰気臭く、しかしその全貌を望めるのであれば、えらく荘厳である事が理解できる様な異質な場所に、1人の男の姿があった。
男は、室内でも一段上に設置された玉座に腰掛けながら、シンと静まり返った静寂の中で、何かを思案する様に、黒色一色である目を細めている。
と、ここで。突如部屋に薄気味悪い時空の歪みが発生したかと思うと、中から老婆とも老爺ともとれる、嗄れた、不快な声と共に、顔に多くのシワを走らせた小柄な男が飛び出してくる。
「ア、アアアア、アル様……ッ!」
「ベダか。どうした」
アル様と呼ばれた男は、静寂を乱されたというのに、特に感情の変化を起こす事も無く、淡々とした様子で薄気味悪い男──ベダの方へと視線を向ける。
ベダは興奮冷めやらぬといった様子でフルフルと身体を震わせた後、周囲に唾を撒き散らす程に勢いよく、
「へ、死嫉神の力を感知致しました!」
「ほう。死嫉神か」
玉座の男が関心を示す様に、平時より微かに目を見開く。
ベダは話を続ける。
「し、しかもどうやら死貴神と接触した模様!」
「……やはり死神とは惹かれ合うものなのか。それよりも、死嫉神が現れたのならば──実行するのか?」
「ええ、ええ」
ベダは大仰に頷いた後、気味の悪い容貌を紙のようにぐしゃりと歪め笑い、
「間違いなく御伽噺の再来となり、アル様の悲願も達成される事でしょう」
言って、自らをアピールするかの様に、両手を広げた。
そんな常人であれば思わず逃げ出してしまう程に不気味な男の前で、しかし玉座の男はなんて事ないとばかりに平静なまま、
「楽しみにしている」
と言った。
その言葉に、ベダは大きく目を見開く。
楽しみにしている、それはつまり自身に期待を抱いているという事で──。
「ァア……アハ、アハハハ」
自身が尊敬の念を抱く男に、期待の言葉を掛けてもらったという事実に、ベダはその場で蹲ると、顔に手を当てながら薄気味悪い笑い声を上げる。
そんなベダを尻目に、玉座の男は視線を微かに上方へと向けると、小さく口元に笑みを浮かべ、
「さぁ、どう動く…………よ」
遥か遠方に想いを馳せながらそう声を上げた。
しかしそんな男の声は、ベダによる薄気味悪い笑い声に掻き消され、誰の耳にも届く事は無かった。




