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《無能》と蔑まれた少年、SSSランクの死神と契約し無双する〜幽冥の纏術師〜  作者: 福寿 草真@異世界エステ書籍版2025/12/25発売
第2章 序列戦 編

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2-17 ルトの想い

 ルティアと別れたルトは、帰宅するとすぐに就寝した。

 気丈に振る舞ってはいたが、やはり精神的な疲労は大きかったようである。


 そして翌朝。ルトはあまりスッキリとしない寝覚めの中、ハデスと契約をしても尚続けている朝の日課をこなすべく、草原へと向かう。

 実は以前は近所の荒地で行っていたのだが、やはりハデスの力は目立つ上に、ハデスと契約した影響か、通常状態でも以前より身体能力が大幅に向上した為、草原で行う事にしたのである。


 全速力で街を駆けること、ものの十数分。


 ルトは、いつも特訓を行っている地点へと到着した。

 着いてすぐに、意識を集中し、死狩を手中に呼び出す。


 軽く振るい、調子を確かめる。

 そして問題ない事を確認すると、ルトは目前に敵がいる事を想定して、戦闘訓練を開始した。


 死狩を振るっては避け、振るっては避けの繰り返し。


 中々に地味な作業ではあるが、継続をすれば体勢ごとの最適な振るい方などが見えてくる為、これが意外とばかにならない。


 そんな地味ながらも有用な行動を続け、経過する事30分。

 流石に息の切れてきたルトは、近くにある木の幹へと身体を預けると、そのまま座り込み、ゆっくりと呼吸を整える。


 その状態のまま、5分程経過した所で、息が整い再び動けるようになる。

 この辺りで、いつもならば立ち上がり、魔物相手に訓練を行うのだが、この日のルトは座り込んだまま一切動かない。


『トレーニングはせぬのか?』


 見兼ねたハデスが、ルトへと声を掛ける。

 心配というよりかは、普段通りでない事に対する疑問を抱いているようだ。


「うん、ちょっとね」


 対しルトは、草の生い茂る青々とした地へと目を向けたまま、ポツリと声を発する。

 そして数秒沈黙した後、意を決した様子でハデスへと問うた。


「……ねぇ、ハデス。色々考えたんだけどさ、やっぱり僕は、アロンに勝利を譲るべきなのかな」


『どうしてそう考える』


「……お互い次負ければ退学。なら、学園に残るのは、残るべき理由がある人間の方が良いと思ったんだ」


『それが向こうだと?』


「うん、間違いなくアロンだよ。……学園に入った理由も、目標も、到底敵わない」


 言って、ルトは口を結ぶ。


 実は以前、入学理由について話題に上がった時があった。


 そう、あれは確か2週間程前のこと──


 ◇


 とある日の昼休み。ルト、アロン、ルティアの3人はいつものように食堂で昼食を取っていた。


 そんな中、不意にルティアが思いついたように口を開く。


「そう言えば、アロンさんは何故、アルデバード学園に入学しようと思ったのですか?」


 以前、ルトにも聞いた質問を、アロンへとぶつける。

 友人であるのならば、もっと沢山の事を知っていたい。


 そんな考えのもと吐かれたルティアの言葉に、アロンは相応の理由があったのだろう、少し恥ずかしげに、しかし力強く声を上げる。


「今まで言った事なかったけど、俺の家ってさ、実は母子家庭なんだよ」


「知りませんでした……」


「まぁ、言ってないからな。……なのにさ、子供は俺含めて3人居る訳」


「それは──」


 あまりにも大変だ。


「そう、母さんも別に高給取りって訳じゃ無いからさ。毎日、毎日朝から晩まで必死に働いているんだ。──まぁ、それでもだいぶ貧乏なんだけどな」


「つまりアロンさんは、家にお金を入れる為に、その為に収入の多い術師団員になろうと考えたという事ですか?」


「そ。術師団に入団して、稼いで、今まで必死に働いて俺たちを養ってくれた母さんに楽をさせる。それが俺の夢で……ここに入学した理由だな」


「素晴らしいですわ、アロンさん!」


「うん、立派だね。……僕とは違って」


 言って、ルトは苦笑いを浮かべる。


「違ってって、ルトは何でここに入ったんだ?」


「そう言えば、アロンには言ってなかったね、僕の入学理由」


 言葉の後、ルトは以前ルティアへと話した入学理由をアロンへと伝える。


「……入学理由以前に、色々気になる部分があるんだが」


 十中八九幼馴染である戦姫、リアリナの事だろう。


「ま、まぁそこはおいおい詳しく話すよ」


「絶対だからな! んで、入学理由についてだけど、良いんじゃ無いか? 入学理由として、十分だと思うけどな」


「私も、そう思いますわ。能力が無かったあの頃に、思い立ち入学できるだけの力をつける。並大抵の努力では無かったと思います」


「そう、かな。……いや、そうだよね」


 言って、ルトは笑う。しかし、内心ではやはり2人との差を感じずにはいられなかった。


 ◇


 脳内で2週間前の会話を思い出しながら、ルトが再度口を開く。


「……昨日さ、ルティアさんの前で、アロンに勝ちたい、だから特訓をするって話をして。確かに、その言葉に嘘は無いよ。アロンに勝ちたいと言う思いは強くある」


 一拍開け、再度口を開く。


「たださ、別にそれは何も序列戦である必要は無いんだ。公式戦である必要もない。──だけど、アロンにとっては、本気で夢の為に術師団入団を目指しているアロンにとっては、今回の序列戦は必ず突破しなきゃならない、何よりも大切な試合なんだ」


 ハデスは口を開かない。ルトが更に続ける。


「──ならさ、今回はアロンに勝利を譲った方が良いんじゃないかと、そう思ったんだよ。……ねぇ。どうかな、ハデス」


 ルトの問いに対し、一拍開けた後ハデスが声を発する。


『知らぬ。……ただ、1つ言えることがあるのならば──そんな事をして、果たしてアロンとやらが喜ぶかね』


「……! それは──」


 ルトがグッと口を結ぶ。


 わかっている。彼が全力で戦う事を望んでいる事を。


 しかし、それでもアロンの夢を知っているルトは、全力で戦うという決断を下す事ができなかった。


 そんなルトの思いを知ってか知らずか。


 ハデスが再度口を開く。


『……ここからは自分で考える事だな。我はもう口を出さん』


 ある意味では突き放すような、冷たさの感じる物言いに、ルトは難しい顔をしたまま「うん」と小さく頷いた。

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