2-4 悪夢の再来
おかしな所があったら、教えていただけると助かります。
大会開始から2時間の後。
参加者が自身の狩場を確保し、ある程度魔物を狩った時間帯。
開始位置である門から少し離れた位置に、風を纏いながら真剣な眼差しで魔物を屠る少年の姿があった。
──アロンである。
彼は、まるで何者かに取り憑かれたかのように、一心不乱に魔物を狩っていた。
「……50匹……まだだ。まだ足りねぇ」
倒れ伏す魔物の中、荒い息を吐きながら、アロンはボソボソと独り言のように呟く。
「こんなんじゃ、ルトには勝てねぇ……」
未だ一度も負けてないというのに、アロンの表情には力が入っていた。
焦りすら、見え隠れしている。
そんな、普段3人でいる時には決して見せない表情を浮かべながら、アロンは狩りを続け、時間ギリギリで門へと戻ったのであった。
◇
狩りをしながら、ルティアはどこか心ここに在らずといった様相であった。
別に、気を抜いている訳ではない。
低ランク帯である草原でも、周囲に気を配り、あらゆる危険を回避しようと行動をしている。
しかし、そんな中でも、やはり心の一部分で集中しきれてなかった。
要因はわかっている。
──ここ数日。ルト、アロンと共に3人で過ごす中で、時折感じる違和感。
ハッキリとしたものではない。
誰のせいとも、何が原因とも言えない、内的で酷く曖昧な違和感だ。
「……杞憂だと良いのですが」
現状では判断が難しい。
だからこそ、もし何かがあった時には、早急に判断し、行動する必要がある。
「もし何かあったら……その時は私が……」
3人で過ごす日々。
ルティアの人生において、既にかけがえのないものとなっているその日々が、もし今後途切れてしまいそうになったら。
考えたくもないが、仮に3人の仲に亀裂が走り、離れ離れになりそうになったら。
──きっと私は耐えられない。
ぐっと口を結ぶ。
考えただけで、胸がギュッと締め付けられる思いになる。
それだけ、現状に多幸感を覚えているという事だろう。
ならば、守らなければならない。
自身の為にも、そして2人の友人の為にも。
その為には、早めに気づき、早めに行動をする必要がある。
ルティアは戦闘の最中、そうある種の決意を固めると、今後絶対に選択を間違えないようにしようと、真剣な表情を浮かべるのであった。
◇
「……さて、始めるか」
一面に広がる草原の中、ルトは1人ポツンと佇みながら小さく口を開く。
その言葉も、誰に届くでもなくふわりと風に流されどこかへ消えた。
「…………」
寂れた雰囲気が漂う。
しかしルトには大して気にした様子は見られなかった。
現在、ルトは1人他の生徒と離れた位置に居る。
別に、突然たそがれたくなったとかそう言う訳ではない。
わざわざ移動時間を無駄にしてまで、この場所に来たのには理由があった。
まず、ここが狩場として優秀であるというのが1つだ。
これはパトロールを幾度となく行い得た大切なルトの知識である。
とは言え、わざわざ遠くまで来るほど優れているかと言われれば、そう言う訳ではない。
寧ろ、もっと良い狩場など近くに沢山あった。
では、何故ここまで人の少ない場所を選んだのか。
それには、ルトの未熟さが関係していた。
「……死狩」
名を唱え、同時に手に黒い靄が集まる。
それは徐々に形作っていき、遂には黒く禍々しい、しかしとてもシンプルな形状の大鎌がルトの手に収まった。
小さく振るう。
相変わらず、武器としては何とも扱いにくい形状をしている。
そう、ルトが皆と離れた一番の理由は、未だ大鎌の扱いに慣れていないからである。
当然だが、大鎌と短剣では間合いも違えば、刃の位置、扱い方すらも違う。
おまけに、急な身体能力の向上もあったのだ。
慣れるまでに時間がかかるのは仕方がない事だろう。
しかし、だからと言って、もし暴発でもして誰かを傷つけてしまっても、許される……という訳ではない。
誰かに怪我を負わせれば、仮にそれが故意でなくとも責任はこちらへと向く。
ならば、リスクを少しでも減らす為に、人気の少ない位置を選ぶという考えは、何らおかしなものではないと言えるだろう。
「……きた」
と。佇んで数分程経過した辺りで、ルトは周囲に魔物の気配を感じた。
恐らく、ルトの放つオーラを受け、警戒しているのだろう。魔物は、様子を伺うばかりで、襲いかかってはこない。
魔物にしては、中々懸命な判断だと言える。
しかし、それはこちらが気配に気づいてなかった場合の話だ。
気づいている今、ルトにとって彼らは格好の的でしかなかった。
周囲を見回し、おおよその数を把握。
次いで、この状況ならば何があっても対応できると確信すると、グッと地面を蹴り魔物へと接近した。
慌てた様子で、魔物が飛び出す──ゴブリンだ。
ルトは間合いまで近づくと、死狩を素早く振るった。
たったそれだけで、ゴブリンの首が飛ぶ。
次いで、その遠心力を利用し、回転。付近に居たゴブリンの頭へと、短剣を突き刺した。
これで2匹の討伐が完了。
その後、ルトは同様にゴブリンを狩っていき、ほんの5分程度で、先程までルトを囲っていた魔物の気配は消え去った。
「……12匹か。結構いたな」
気配を感じたとは言え、正確に位置を把握できている訳ではない。
ましてや、数なんておおよそでしか把握出来
ていない。
だからこそ、ルトは自身の勘はまだまだだと自責した。
以後、ルトは死狩と短剣を用い、狩りを続けた。
そして、大会開始から3時間後、
「……これで121ポイントか」
ルトは計121匹の魔物を狩っていた。
これが、多いのか少ないのかはわからない。
しかし、以前のルトでは考えられない数である事は間違いなかった。
「……そろそろ戻るか」
ここから門までは急いで30分という所か。
やろうと思えば、まだまだポイントを稼ぐことはできる。
しかし、ギリギリまで粘って、時間オーバーでは元も子もない。
だからこそ、余裕を持って終わろうと考え、門へと向かおうとし──
「────ッ!」
──ルトは突然猛スピードで迫ってきた何かを、バックステップで避けた。
静かに着地するルト。
次の瞬間、先程までルトが居た位置へ、巨大な棍棒が突き刺さった。
……デジャヴを感じた。
ルトは、半ば確信しながらも、棍棒の飛んできた方向へと目をやる。
……そこには、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ佇む、オーガの姿があった。




