たゆたう筆
きっと僕は公認会計士にも弁護士にもなれるのだと思う。あるいは有名な絵描きや物書きに。
別に突然ナルシストになっているわけではなくて、それはもちろん相当な努力を必要とするだろうけど、
( その実多くの人が気づいているように ) 大半の人間というのは大概何にでもなれるのだと思う。
だけれど僕は未だにベストセラー本も出してないし、裁判所で異議を唱えたこともない。
何かの地下運動の指導者にもなっていないし、まして何らかの目新しいサービスを作り出したことすらない。
きっと、可能性が可能性の話として終わっているそれには、おそらく、理由がある。
「夢」というのは持つだけで力になる。
作り物のそれでも本人が信じれば、夢もそれに応える。偽薬効果。
悲しい哉。
僕には夢を持つだけの胆力も、純粋さもなかった。そうやって自分の人生をどこか俯瞰していた。
厭世感を漂わせ、俗人をバカにし、出来すぎたレールに唾を吐いてきた。
そうやって、仙人にでもなった気分で、諦観の霧の中をひたすら歩いていた。
結果、自意識が肥大化し、自己を過小に評価するようになった。
それは相対的なところもあるだろうが、基本的には内省からなる僕の本音だ。
今やプライドは地の底に沈み、人格否定以外の何もかもを受け止めるようになった。
僕は、もはや、輝く星の下、息を吸って吐ければそれでよかった。