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天狗の巣3

 白い皮も剥いたみかんを半分にしてぱかっと開かれた黒いくちばしの間に入れると、カラスがニャムニャムと鳴きながらそれを飲み込んでいく。残り半分を自分の口に放り込んでまた皮を剥いていると、カラスが近付いてじっと見ている。剥きおわると、またカラスがニャムニャム言いながらみかんを食べる。


 しばらくして大きな天狗がまた出掛けていき、大きい家には私とカラスだけが残されていた。カラスはみかんに満足すると、どこからかビー玉を取り出して私の手元に置いた。じっと見上げてくるのでくれるのかと思って拾おうとすると、くわわと鳴いて自分の方へと近付ける。自慢したいだけだったらしい。

 咥えては落として転がす遊びを眺めていると、じわじわと空が暗くなり始めた。


「ミコト様心配してるよね……。帰りたいんだけど、天狗さん戻ってきてくれないかな」


 遠くに投げたビー玉を転がして戻してあげながらポケットを探ると、バラバラになった紙とズタズタになったお守りが出てきた。


「なにこれ!」


 ポケットに入れたままで服自体は何ともなかったのに、人の形に切り取られていた紙の依代は刃物で切ったように細かく刻まれていて、お守りも何度も切りつけたようにぼろぼろになってしまっている。


「うわ、ポケット紙だらけ」


 膝立ちで縁側まで移動して小さくなった紙をポケットから掻き出していると、板の床に置いた紙の欠片が風に乗ってヒラヒラと舞い上がり、一筋になって飛んでいってしまった。

 もしかして、山の神様に何かされて空中に放り投げられた時に何か力が働いたのだろうか。お守りが身代わりになってくれたという怖い話も聞いたことがあるし、もしかしたらこのお陰で無事だったのかもしれない。

 ズタズタになった2つのお守りは、どちらも布の袋が裂けてしまって中が見えている。ミコト様が布から作ってくれたお守りは中に白い石のようなものと、おそらくミコト様の髪の毛が入っていた。石は4つに割れてしまっている。ちなみに天狗仮面が作ったお守りの中のものも分割されてしまっていたけれど、内容物は御札みたいな木の板と何故かミルキーの包み紙だった。ほんとに何故。


 お守りがどれくらいの効力を持っているのかわからないけれど、神様であるミコト様が作ったものをここまで傷付けられたのだ。本人が言っていた通り、山の神様の力も強いものなのだろう。そんな人がお屋敷を狙っているのだと思うと、私の方もミコト様が心配になってくる。ちゃんと無事でいるだろうか。まさかあの変装に化かされてはいないと思うけれど。


 何となく落ち着かなくてそのまま縁側で外を見上げていると、空に小さい点が見えて、それがまっすぐと落ちてきた。


「ルリちゃん!!」


 風を起こしながら庭に着地した一本歯の下駄が、そのままこっちへ駆けてくる。天狗仮面こと天狗のお見習いさんは、息を切らしたまま靴を脱ぎ捨てて、プールから上がる時のような動作で縁側を登った。


「お師匠から連絡が来て、本当にびっくりした!! 大丈夫だった?! 怖かったでしょ?!」

「あ、はい」

「無事でよかったー!!」


 慌てたようにガシッと私の肩を掴んだかと思うと、天狗仮面はぎゅっと私を抱きしめた。びっくりして固まる私をよそに、危なかったとかお師匠に頼んどいてよかったとか騒いでいる。カラスが近寄ってきてカーカーと文句を言うまでその状態で私は固まっていた。


「とりあえず寒くない? 日が暮れてきたから! 僕の上着貸してあげるね! お腹すいた?」

「大丈夫です……」

「すぐ作るからね!」


 どたどたと大きな部屋を横切って巨大な襖を開くと、大きな押し入れが見えた。そこに畳まれて入っている巨大な布団、の端に入っている普通サイズの箪笥をがさごそあさって、天狗仮面は私に薄い半纏みたいなのを着せ、それから座布団も敷いてくれる。

 土間に下りて洗い場の隅の方にあった小さいサイズの急須にお茶を淹れて私に湯呑みを出してから、かまどの火を強くして大きな釜に材料を投げ込む。それから外で水音が聞こえてカラスが飛んで行き、しばらくしてから天狗仮面が手拭いで顔を拭き拭き戻ってきた。


「あ」

「え? あっ」


 いつも被っていた天狗のお面を顔から外し、紐を首に引っ掛けたまま後ろに回した状態でやって来たのを見てつい声をあげてしまった。それに反応して天狗仮面がこちらを向く。

 こげ茶色の髪に少し垂れた目、鼻は少し高くて唇は薄い。思っていたより年は若く見えて、二十代中盤くらいの印象を受ける。色白で柔和そうな顔が、私が凝視しているのに気が付いてしまったという顔をして固まった。






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