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わらわらさん9

「なぜあやつはこんなちっぽけな娘を気に入ったのじゃろう? のう、玉や。霊力もなく、飛び抜けた器量もない。喰ろうても不味いだけじゃろうに」


 くすくすと女の子姿の山の神様が笑うと、それに同意するように玉と呼ばれたキツネがクワウと鳴いた。黙って睨んでいると、ズシンと地面が揺らぐ。周囲の木から葉っぱがはらはらと舞い落ちてきた。


「おお、ほれ、奴が探しておるわ」

「ミコト様!! 助けて!!」

「無駄じゃ無駄じゃ。あれが篭りきりになっていた間、わらわらは修行に励んでおった。昔なら知れぬが、今の結界は破れまいよ」


 得意げに言うだけあって、地響きは聞こえるけれどミコト様が近付いてくる様子もなく、声も聞こえない。ジーンズのポケットに入れたお守りを握っても、女の子はクスクスと笑うだけだった。


「せっかく神力が細くなったのでそろそろあの地を乗っ取ろうとしておったのに、今更悪あがきのように信仰を得て何をしようというのかのう」


 山の神様はやっぱり、ミコト様の住んでいるお屋敷を自分のものにしようとしているらしい。ミコト様の神社にお参りする人がいなくてご神力も少なくなってきたところを虎視眈々と狙っていたようだ。


「のう、人の娘や? そちの命と引き換えにせよと命じれば、あれはあの地を受け渡すと思わぬか?」

「……」

「それとも、私がそちに化けてあれを騙くらかすのはどうじゃろう? そちの骸は、玉のエサにしてやろうの?」


 楽しそうに女の子がくるりと回ると、そこには鏡写しにしたように私の姿があった。同じ服装、同じ髪型で不安そうな表情をしていたその顔は、私が驚いた様子を見てニンマリと笑う。キツネもそれを喜ぶように偽物の私の周りを飛び跳ねていた。


「契りを結べばあとはどうにでもなろう。あれを追い出すなり封じるなりすればよいことじゃ」

「……そんなの、絶対無理」


 わざと脅すように言っては楽しそうにしている姿は、自分と同じ顔をしているだけにより嫌悪感を催させた。

 私が低く反論すると、片眉だけを上げてみせる。


「はっきり言って、全然似てないから。そんなんでミコト様のこと騙せるわけないじゃん」

「なんじゃと?」

「私そんな表情出来ませんよ。服装とか似てても仕草とか全然違うし」


 私の格好をした山の神様は、ムッとした顔になった。キツネも鼻にシワを寄せて唸っているけれど、私はもうこの人達の前で取り繕わなきゃとか怒らせないようにしなきゃとかそういう気持ちは浮かんでこなかった。


「ほら私そんな根性悪い顔出来ないもん。あとそんな意地悪いこともできないし。ミコト様だって一瞬でわかりますよ」

「妾らは誇り高き天狐の一族ぞ! 術を馬鹿にするのか!!」

「わらわらさんはっきり言って下手くそですよ。前だってミコト様のマネしてたんでしょうけど、全ッ然似てなかったから! バレバレだったから!」

「なんじゃと!! この小娘ッ!!」


 山の神様は印象通り、沸点が低いらしい。私の言葉に乗せられて怒ると、周囲に風が吹き荒れた。負けないように足を踏ん張って目を開けると、私の姿をしていた山の神様は髪が舞い上がり、目が裂けて瞳孔が縦長になって、しゅうしゅうと炎を吐いている。頭の上には三角の耳が生えていた。


「ほらもう変身解けてるじゃないですか! 下手くそ! あなたが見下してる人間にだってそんなの見破れますよ! 意地汚いマネするようなやつにミコト様が負けるわけない!」

「黙れ黙れェ!!」


 別に何か策があったわけじゃない。ミコト様が来るのを期待していたわけじゃない。ただ、ここで好きなように弄ばれて死ぬんだったら、ちゃんと言いたいことは言っておきたかった。

 大きな風の塊が、切り裂くような音を伴って私の体を叩き上げる。破裂するような音と共に、私の体は空高くに投げ出された。






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