表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/302

わらわらさん7

「ルゥリィ」

「ルリ……」

「ルゥ〜リ〜」

「ルリよ……」

「ルゥウゥ〜リィイ〜!!」

「そなたは……」


 鯉にエサをあげながら、ミコト様はジメッとした目でこっちを見ている。ついでに黒い鯉が鳴いているので、変に恨みがこもったような感じに聞こえていた。


「そなた……妙に嬉しそうではなかったか……あんな、あんな小天狗の……あんな頼りないお守りで……うっ……私の方が……私の方が良いものを作れるというのに……うっうっ」

「えっ泣くほど? 何かごめんなさい」

「そんなにあやつの方が……ルリよ……」


 天狗仮面から手作り感満載のお守りを貰っていたシーンを目撃してからというものの、ミコト様の湿度がアップしている。

 心配して親切心でくれたのだろうし断るなんて選択肢もなかったけれど、ミコト様的には良い対応とは言えなかったようだ。


「いや……せっかく作ってくれたので。いつもおやつくれるし……」

「おやつ?! おやつなら私もあげているではないか! 何なら毎日私の分を食べても良いのだぞ! 毎日! いくらでも!」

「あ、太るんでそれはいらないです」

「あなや……!!」


 最近二の腕のぷにぷにが気になり始めたのでやめて欲しい。お屋敷のごはんは美味しすぎるのが欠点である。おすましして座って控えているめじろくんが「何とか慰めて」と目で促してくるので、よよと袖で顔を覆うミコト様に私はそっと近付いた。


「ミコト様だってあの紙のやつくれたじゃないですか。ちゃんと言われた通りに肌身離さず持ち歩いてますよ」

「でもそんなに嬉しそうではなかった……」

「だってあれ嵩張るし……いや、気持ちは嬉しかったですよ。喜んでますよ」

「……まことか?」

「まことまこと」

「ではルリは、私がそなたにお守りを下しても喜んでくれるか」

「えっはいまあ」


 そっと見上げて、ミコト様は懐から何かを取り出す。それを私の手に握らせるように置いた。

 お守りである。


「クオリティ高……」


 濃い青色の布は小さく丸い文様が織り込まれていて、お守りの口を結んでいる飾り結びもなんだか複雑に凝っている。刺繍は片側に紅白梅を遊び飛ぶスズメとメジロ、裏側には狛犬と獅子が躍動感溢れる様子で刺されていた。その他に、白っぽい糸で文字みたいな刺繍もある。袋の角もきちんと縫われていた。


「刺繍など初めてのことで少し手間がかかったが、ルリのことを思うて作ったのだ」

「ミコト様が刺繍したんですか……」

「布も少し織りがヘタですまぬが、心だけは篭っておる」

「えっ布も作ったの?」


 ミコト様の本気度が凄い。もしかして昨夜なんか隣から聞こえてきていたのは「とんとんからり」の音だったのか。夜中にうるさいとか思ってごめんなさい。

 手先が器用なだけに、ミコト様はどこまでも突き詰めてしまうようだ。大量生産のお守りよりも綺麗に作られているそれは、神様のハンドメイドだけになんかご利益とかすごそうだった。


「すごい。ありがとうございます。この布、瑠璃色なんですね」

「う、う、うむ」

「さすがミコト様。大事にしますね」


 ミコト様はようやくにこにこと笑い、めじろくんに連れられて仕事部屋へと去っていく。あんなににこにことはしていないと思うけれど、私も嬉しい気持ちで台所を目指すことにした。

 天狗仮面から貰った手作り感溢れるお守りも良かったけれど、ミコト様の可愛い刺繍の入ったお守りも嬉しい。台所で下拵えをしていた梅コンビに自慢すると、すごいすごいと2人もにこにこしていた。


「素敵なお守りね」

「主様の強いご加護が良いわね」

「ルリの好きなものが描いてあるわ」

「かわいいわ」

「えへへーいいでしょー。ところですずめくん見てない?」


 今日はすずめくんと一緒に過ごす約束だったのに、下働きに指示を出してくると言ってからまだ帰って来ていなかった。これから古い本の虫干しをする約束だったので、倉の方に行っているかもしれないと主屋から渡り廊下を渡って東の建物まで歩いて行く。庭側の廊下を歩いていると、じわじわと夏の暑い風が吹いていた。


「すずめくん、いる?」


 磨き上げられた板の廊下を靴下で滑らないように気を付けながら、部屋を覗いて声を掛ける。途中で会った人も誰もいないというので、やっぱり倉の方かと庭に出るために階を降りる。

 可愛いピンクの鼻緒をつっかけてふと顔を上げると、獣が塀の上に立っているのに気が付いた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ