わらわらさん5
出来立てのプリンは口の中で温かくとろんと融けて美味しい。ミコト様はカラメルが入った固め派だけれど、私は断然なめらか派だ。カラメルも苦いのでいらない。土鍋で蒸した、そばちょこに入った大きなプリンを黙々と口に入れていると、ようやく落ち着いてきた。
「えーっと、つまり殺気の人はお隣さん的な人で、前々からミコト様とあんまり仲が良くなくて、ミコト様が人間をかまってるらしいという噂を聞きつけてやって来たと」
「うむ」
「私完全に巻き込まれじゃないですか」
「すまぬ……」
ミコト様はしょんぼりと呟いて持っていたプリンを差し出してきた。生クリームの乗っているところだけ掬って、しかもさくらんぼは返す。このピンクのさくらんぼ、何か味が苦手だ。
白梅さんと紅梅さんはプリンをクリームや煮豆などでデコるのに夢中になっていた。チョコとクコの実で梅の木を上手に描いている。すずめくん達も一緒に食べ始めたけれど、あっという間に掻き込んで行ってしまった。さっきの山の神様がお屋敷の結界を壊していったのでそれの修理とか、何か変なものが入り込んでいないかとかを確認しに行ったらしい。狛ちゃん獅子ちゃんが番犬をしているけれど、一応念のためということだった。
「もう随分と顔を合わせてもいなかったので、興味が失せたかと思っておったが……折に触れてこちらのことを覗いていたらしい」
「マメな人なんですね」
「この屋敷を狙っているのだ。少し良い場所に建てたゆえな」
元々山の神様は他から来た人で、山もそもそもはミコト様の縄張りだったらしい。だけど引き篭もり生活をやっている内に勝手に住み着いていたらしい。
「えっ泥棒じゃん」
「いや……私も広い土地の加護は難しかったし……その頃は助かったと思ったし……」
「更にお屋敷も欲しいとか、あれじゃないですか、盗っ人猛々しいってやつじゃないですか」
「そもそも欲しければ争うというのは昔はよくあったことで……いや、そのもちろん、今ではそういうのは野蛮なのはわかっているぞ」
神様物騒すぎないか。ミコト様も昔はそんな物騒に暮らしていたのだろうか。ダウンタウン生まれヒップホップ育ちなのだろうか。
という私の目線を受けて一生懸命弁解したミコト様は、2つめのプリンに手を付けた。私も可愛いプリンは食べたいけれど、晩ごはんが入らなくなりそうで迷っている。
「ルリには本当に申し訳ない。けれども、この屋敷が彼奴にとっては最も手を出しにくい場所なのだ。だから出て行かないで欲しい……そして私のこともき、嫌わ……嫌わないで欲しい……」
「まぁ、出て行くって言っても、行くとこないですし」
「そ、そうであった」
「何か今ミコト様一瞬嬉しそうじゃなかった? 私怖いんですけど?」
「ふはふ」
今まで住んでいた家に関しては、外の世界担当である蝋梅さんが主にあれこれ動いて何か手を回してくれているらしい。あんまり詳しく聞きたくなくて知らないけれど、多分帰ろうと思えば帰れる状態にしてくれているのではないかと思う。だけど正直、今はあの家には近付きたくないという気持ちが大きいので、実質お屋敷以外に行くところがないのだ。
のんびりとほっぺを引っ張られている神様が今目の前にいるけれど、察するに山の神様はミコト様ほど温厚ではないのは間違いない。普通の女子高生には神様に対抗できる力などは備わっていないので、ぜひともミコト様には早くこの状況をどうにかなんとかして欲しい。
「と、とにかく私の依代を肌身離さず持ち歩いて欲しいのと、またやって来たときのためにもルリは主屋で過ごすようにしたほうが良い。近くにあればそれだけ守りやすいのだ」
頬を伸ばしていた私の手をそっと握ってミコト様は真摯にそう言った。キリッとした顔をしているとミコト様のイケメン度が上がるけれど、口元にクリームを付けているのでプラマイゼロくらいである。私はとりあえず頷いてそれを指摘し、ティッシュの箱をこちらを何か期待した目で見つめているミコト様に渡した。




