わらわらさん2
白蛇に不吉な忠告をされたということをミコト様に話すと、わなわなと震えて衝撃を受けていた。
近くで私の採ってきたみかんを並んで食べているすずめくんめじろくんコンビはうんうんと頷いている。もりもりと食べているので数個程度だとすぐに食べ尽くしてしまう2人である。
「蛇は鼻が利きますからねえ」
「特に不運はよく嗅ぎ付けます」
「そこだけであれば使えますけれどすずめは蛇はいやです」
「めじろも嫌いです」
「そそそんなことを言っている場合ではないであろう!! ルリよ、大丈夫か? 依代をもっと増やさねば……ああ、何が起こるというのか!」
のんびりみかんにぱくついている2人とは対照的に、ミコト様は慌ただしくウロウロし始めた。既にもらった依代が紙なのに数センチくらいの厚さになるほどだし、別に新しく作る必要はないのではと言ってみても聞いてくれない。
正直、出掛ける度に紙の重さに煩わされるのは嫌だ。
「ミコト様、私も気をつけますし、ほらいざとなったらミコト様のことも呼びますし」
「それはもちろんだが、何が起こるかわからないではないか。ルリの身に何かあれば私はやっていけない……」
「そんな大げさな」
「大げさではない! 私だけではなく、すずめらも梅らも悲しむのだぞ。他の者達もそうだ。そのあたりを忘れてはならぬ」
ミコト様の台詞、そのままそっくりお返ししたい。ミコト様の顔の傷のことで、皆が心配しているのだから。
ともかく、ミコト様の心配性が爆発しそうなのでなるべくお屋敷で大人しく過ごし、登校日で外出するときは小さなSP付きで、寄り道も無しでまっすぐ帰るということを約束させられた。その他にもミコト様は狛ちゃん達に見回りを強化するように頼んだり、神力を高めるために瞑想とか水垢離とかをしているらしい。
正直神様であるミコト様がそんなに警戒しているのであれば、取り越し苦労になるのではないかという気持ちしかないけれども、一応私も身の回りには注意することにした。
「っべーわミノさん。鳥増えてんだけど。あれっしょ? ウグイスっしょ?」
「いや、めじろだから。うぐいす色だけどめじろだから」
「何それ意味わかんねー! ミノさん鳥と喋れんのかよウケる〜!」
相変わらずノビくんはテンションが高く、右肩に乗るすずめくんと対を成すように左肩に乗っためじろくんに指を差し出しては細い嘴で突かれている。メジロはスズメよりも一回り小さいけれど、こっくりした緑色と目の周りの白縁が目を引く鳥だ。鳴き声も可愛い。スズメはよく見ると茶色にも濃淡があって複雑な模様の組み合わせが可愛い。私の周囲は鳥パラである。
「お前……まあいいけど、とりあえず今日の買い物リストな。ネットで頼んだ荷物受け取ってから買いに行くから」
「百田くんありがとう。今日も顔色悪いし無理しないでね」
「割と慣れてきた。胃空にしとけば吐かないし」
前回に引き続き文化祭の準備を進めるけれど、うちは小物係というのもあって大道具の材料を買う手伝いなどもすることになった。ベニヤやペンキなど重いものは自分たちで持つらしいので、頼まれたのはモールやポンポンなどである。洋風とはいえお化け屋敷に必要な材料なのかはさっぱりわからないけれど、買い物リストに書かれたものを忠実に買うのみだ。
「荷物待つ係と先買い出し行く係に分かれたほうがよくない? あとで合流しよー」
「一人ぐらい残ればいいんじゃない? 大沢くん休んでたんだし居残り組にする? 一人でやってくれるなら学校で留守番しててくれていーよ?」
大沢くんは、この前休んでいて私達の小物係に入れられてしまった男子である。前髪が長くてメガネを掛けているので表情が見えづらいけれど、小さい声で「まぁ別にそう決めたんだったらいいけど……」と返事をしていた。だけど女子には聞こえなかったらしく、もう一回言ってと言われて俯いていた。ミコト様と同じようにシャイなタイプなので、ハキハキしたのんちゃんみたいなタイプが苦手なのかもしれない。
「まあ荷物はそんな重くないけど、結構量あるぞ。一人は可哀想だろ」
「でも買い出しだっていっぱいあるじゃん」
百田くんがそう言うと、のんちゃんが反論する。なので私が手を挙げて一緒に残るというと、ついでにノビくんも真似して手を上げた。見上げると、何を感じ取ったのかノビくんが私の挙げた手にハイタッチしてイエーイと一人で賑やかになる。
「鳥やべーし俺もミノさん手伝うわ! ホムセンまで道あやしーからミノさんに連れてってもらうし皆で先行っといてくんね?」
「去年も買い出し行ったでしょ! 覚えなよ雑草!」
「野蒜は雑草じゃねーし! 食べられる野草だし!」
「うるせー。じゃあ箕坂荷物頼むわ」
「モモそれ俺に頼むとこじゃね?」
「じゃあルリあとでね。早く来てねー」
「はーい」
ワイワイ騒いで百田くんと私の友達は先に出掛け、あとは暑い昇降口に私とノビくんと大沢くんが残される。いきなり静かになって日陰の暗さが濃くなったような気がした。
「よし! とりあえずクーラー付いてるとこ行かね?」
「ノビくん天才だわ」
「だっしょ」
LL教室を目指して歩き出す。すずめくんとめじろくんはクーラーが嬉しいのかちゅんちゅか鳴いている。振り返って大沢くんも行こうと誘うと、頷いて付いて来た。




