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わらわらさん1

 粘土といえば紙粘土か油粘土くらいしかしらなかったけれど、最近は色んな粘土があるみたいだった。

 透明感のある粘土もあって、絵の具で色を付けると和菓子みたいになって面白い。ネリキリというお菓子を白梅さんがよく作ってくれるので真似をして似たようなのを作ってみると、ミコト様が粘土の方を食べそうになってしきりに感心していた。


「いや、だからって州浜に置かなくても」

「ルリよ、これはとてもよく出来ている。可愛いではないか」

「縮尺が全然違うじゃないですか。牛車とほぼおなじサイズの和菓子ってもはやモンスターですよ」


 私とミコト様が思いつくままに工作している州浜は、梅の花を模したもったりフォルムの巨大オブジェが追加されますますカオスになってしまった。現代アートとしてはありかもしれないけれど、せっかくなのでミニチュア版も作ってみることにする。爪楊枝とかでちまちまやるのは結構楽しくて、他にもパンケーキとかパフェとか、私とミコト様の間に遅ればせながらも空前のフェイクスイーツブームがやって来た。


「ミコト様見て。めっちゃリアルに作れました」

「おぉ……! まるで菓子をそのまま小さくしたみたいではないか。こちらもほら、みかんらしくなったぞ」

「果肉の再現率やばいですね」


 さらなる再現性リアルを求めていくつも試行錯誤を重ねるため、試作品が沢山出来上がる。ボツのものは紙を折って作った箱にまとめて入れて、秋の庭へ持っていく。すると庭の方からするすると白く細長いものが蛇行して近寄ってきた。

 器用に階の端を登って一番上に頭だけ乗せた白蛇は、赤いつぶらな瞳でチロチロと舌を出す。


「はい、あげる」


 木の廊下に試作品を転がすと。ゆっくりした動作で口を開いて白蛇がそれを食べ始めた。

 私の夢に入り込んだり作ったお面を盗んだりした子供の白蛇は、今は大人しく秋の庭で心を養っているらしい。早く立派になって家族に会いたいという涙ぐましい理由だったのと本人、いや本蛇が反省していることから、私やミコト様の作ったものなどでいらないものを時々あげているのだ。

 白蛇にとって精魂はとてもいい栄養になるらしく、一生懸命食べている。普通の動物であればどう考えても食べさせてはいけない材質なのに美味しそうに食べているのが不思議だ。


 ミニチュアスイーツをいくつか食べ終わると、蛇が子供の姿になる。夢の中では自由に子供姿になっていたけれど、実際には力が不安定で、普段は蛇姿で過ごしているのだ。顔だけ見ていると蛇も可愛いと思うけれど、長いニョロニョロ感がちょっと苦手な私を気遣って、精魂を食べる時には子供の姿をとってくれるのだ。

 小さな和菓子を指で拾い上げた色白で小柄な子供が、丁寧にペコリと頭を下げる。


「ルリさま、いつもありがとうぞんじます。ルリさまのたましいはいつもおいしゅうございます」

「う、うん……ありがとう……それで満足してね」


 魂の味とか褒められてもいまいち嬉しくない。私本体を狙わないのであれば、遊びで作ったものくらいいくらでも食べてくれればいいと思う。

 すずめくんやめじろくんを初めとして、元の姿が鳥だという人もこのお屋敷には沢山いるので、白蛇は日頃出来るだけ姿を表さないようにひっそり暮らしている。というか蛇はもともと日陰のしっとりしたところが好きらしいので、食べ終わるといつも静かに秋の庭の草に隠れてしまうのだけれど。

 いつものように別れを言って戻ろうとした私を、白蛇は赤い目で見上げた。


「ルリさま、お気をつけあそばされませ」

「ん?」

「わざわいのけが出ております。あるじさまのよりしろをてばなされませぬよう……」


 何か不吉な注意をして白蛇はまたヘビに戻って庭に帰っていった。

 依代といえば、外出する際にミコト様がいつも持たせようとしてくる人形の形に切った紙みたいなものである。困ったときにあれを持ってミコト様を呼ぶと良いとか言われているけれど、今まで一度も使ったことがなくて鞄のスペースを狭くする役割をしているものだ。


「災いって……こわっ」


 何か偉い蛇神の子供らしい白蛇に言われると、さらになんか不吉そうな感じがしている。

 とはいえほとんど外出することもなく、一日中お屋敷に篭りっきりという生活にも順応してきたこの頃である。ここにいる限りはミコト様のちからに守られているので、出来るだけ引きこもるようにしようと決心して、私は庭の果物のなり具合を確かめてから戻った。






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