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下駄の音7

 厚焼き玉子に辛子明太子を入れると衝撃的に美味しいなんて、夏。

 美味しさのあまり、ミコト様に拝んで一切れ追加してもらったくらいの美味しさだった。真ん中に入った明太子の、外側がほんの少しだけ火の通っている絶妙な感じが感動的な逸品である。今日は雑穀なしの白米にしたごはん係すずめくんの名奉行っぷりも伺える。ほの甘い卯の花とお味噌汁で永遠に朝ごはんを食べられるメニューだった。


「また食べすぎた……今日のご飯はいつにもまして最高だった……」

「ルリが褒めるから、厨も腕の振るい甲斐があろう」

「ぐーたらしてたら太りそう」

「ルリは少しばかり太ってもよいと思うが」

「ミコト様それ女子に言っちゃダメなやつ」

「そ、そうか、すまぬ」


 ミコト様を睨むと、嬉しそうに謝られた。ミコト様マゾ疑惑は続いている。

 どんな内容であれ私と会話するのが嬉しいと言ったミコト様は、仕事の前に少しでもおしゃべりしようという気持ちから、空になったお膳を持って台所に行く私の隣を歩いている。同じように、自分のお膳を持って。今まではめじろくんが片付けていたものなのに、わざわざ面倒なことを引き受けるだなんて物好きである。

 神様であるミコト様はお茶碗を洗うことなどしたことがなくて、私の隣で危なっかしくスポンジを握っている。ミコト様のお茶碗は春夏秋冬の花の描かれたものだけれど、丁寧に洗われる度に絵柄が派手になっていっているのは気のせいだろうか。近いうちにあれが動き出しても私は驚かないと思う。


「ミコト様、泡落ちてないですよ。後ろのとこ」

「おお、さすがルリはしっかりしているな」

「洗剤使った後は石鹸で手を洗ったほうがいいですよ。洗剤残ってるとカサカサするから」

「うむ」


 ミコト様の「どんな願いも叶えるぜ」的な姿勢はやっぱりモヤモヤするけれど、ミコト様がなんか嬉しそうなのを見ていると、イライラしてもしょうがないんじゃないかという気持ちになってきた。要は私が無理めのお願いをしなければいいのだし、よく考えたらそういう姿勢はどうかと思うというのは言葉で伝えればいい。

 このまま期限が見えずお屋敷でお世話になるのだから、お互いに言いたいことを言ってわだかまりがない状態が1番いいだろう。ミコト様のしょんぼりした目で見られるのも結構辛いし。


「じゃあミコト様、私は掃除して宿題片付けます」

「うむ、根を詰め過ぎぬようにな。もし何か欲しいものがあればなん……でもではないが、言うがよい。私も出来る限りで叶える」


 何でも叶える姿勢はどうかと思うと何度か言っているせいか、ミコト様をじっと見ていると狼狽えて言葉を変えた。しかし、これすら私がそう願っているから変えている感じがする。

 そもそも神様なのでジェネレーションギャップというか、価値観の違いは否めないのかもしれない。そこはお互いに気遣いつつ、相手の気持に立って考えられるようになれたらいいけれど。


「ミコト様こそ、私にして欲しいこととかありますか?」

「えっ……そ、そんな! こんな日の高い時に!」

「太陽の位置関係ある?」


 ミコト様は顔を隠してささーっと逃げてしまった。恥ずかしポイントがわからない。

 しばらくしてからめじろくんがめんどくさそうな顔で「新しいお面が欲しいそうです」と伝えに来た。ホームセンターに行ったついでに軽量粘土や塗料を買ってきたので、今日から怪しいアフリカのお面がコンセプトのものを作り始めることにした。






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