四季の咲く庭4
「寒っ!!」
「寒いのね。風邪を引かないかしら?」
「人間は心配ね」
冬の庭はちらちらと雪が舞っていた。木の枝や岩にも積もっていて白い景色が目に寒い。ブーツにジーンズに長袖のジャケットを着ているけれど、流石のすずめくんでも夏場にダウンコートは見付けられなかったらしく、私は上着に綿入り半纏を着込んでいた。
「おお、似合っているな! ルリ、とてもよい!」
朝、待ちに待った洋服で広間に顔を出した私をミコト様が褒めてくれた。
「変わった織物を使っているのだな。その、少し体の線が出すぎかと思うが、しかし動きやすそうだ。和服もよいが、洋服もよいな。ルリは何でも似合う」
あんまり褒めちぎられると逆に似合っていないんじゃないかと不安になるのでやめて欲しい。あと顔を隠してるのにどうやって見ているんだろう。念力?
「体の線って言っても、別にスキニーでもないし、上も普通の服ですよ」
「いや、好きに着飾ってくれればよいのだが、そうか、今はこれが普通なのか……」
確かに平安っぽい服で暮らしていれば洋服は体の線が出ているかもしれない。だからこそ動きやすいし軽いのだ。いちいち座ったり立ったりする時に皺や結び目を気にしなくていいし、高そうな着物を汚すのではないかという不安からも開放されて非常に清々しかった。
「今日も庭を見るのか? 明日であれば私が案内出来るのに……」
「仕事の邪魔はしたくないので大丈夫ですよ。今日は2人も来てくれるので」
居候のくせに我儘に付き合わせたくはないのでそう言うと、ミコト様は柱の影で「大丈夫……大丈夫とは……」とぶつぶつ言っていた。しばらく眺めていたけれど、すずめくんに脇腹を小突かれたのでミコト様には明日、中庭を案内してもらうことにする。
「うむ。明日、とくと案内してやろう!」
「楽しみにしてますね」
「ルリよ、暖かい格好で行くのだぞ」
「はーい」
そんなわけで今日は美女コンビと西側にある冬のお庭探索なのだった。
「あれは万両ね」
「まだ実が残っているわ」
「ルリさま、手が寒いわ」
「凍ってしまうわね」
「凍りません……」
両側からちやほやと世話を焼かれるという美女サンドイッチ状態で冬の庭を歩く。美女2人は着物姿なのに寒そうな素振りはなく、私にマフラーを巻いたり手を擦ったりととても甲斐甲斐しい。近くにいると両側からふんわり甘い香りが漂っていて気分は悪くないけれど、このコンビは私のことを幼児かなにかと思っているのかもしれない。
「雪は牡丹雪がいいわね」
「沢山積もるのはいいわね」
「雪好きなんですね」
「冬は素敵ね」
「うきうきするのよ」
「きっともうすぐ私達の季節になるからね」
「きっとそうだわ」
「私達の季節……」
未だに2人の名前を当てられていない私は、顔を合わせる度にわかったかどうかせっつかれる。冬が明けた頃が2人の季節というのであれば、その頃に関係する生き物の名前なのだろうか。よくわからない。
「えーっと。うさぎ?」
「ちがうわ」
「クマ?」
「ひどいわ」
「もしかしてカエル?」
「ルリさまったら」
「ひどいわひどいわ」
美人はむくれていても可愛い。マフラーにぐるぐる巻にされながらも、私は冬の庭になるみかんの収穫に励むことにした。すずめくんもめじろくんも寒いところはあまり好きではないらしく、今日はどちらもミコト様のところでお仕事の手伝いをしている。
みかんの他にも柑橘系の木が色々あって、好きな伊予柑を見つけた時は嬉しかった。あとはりんごの木もあって、籠には赤いりんごも入っている。
色んな種類をまんべんなく収穫していると、雪がちらついてるのに体は温まってきた。
「これくらいでいいかな。どれかもっと欲しいとかある?」
「私達のために採ってくれるのね」
「とても優しいわ」
「嬉しいわね」
「嬉しいわ」
「えーっと、なかったら行くよー……あ、しらさぎさんこんにちは」
すぐそばにある西の建物の縁側に人影が見えた。お辞儀している女性は何度か食事の場で見たことがある人で、お屋敷のリネン係みたいな仕事をしているらしい。おっとりとお辞儀していた彼女は、外にいる私達のためにタオルと火鉢を用意してくれたようだ。
私達が庭から屋内へ上がると、タオルと温かいお茶を渡して火鉢の傍を勧めてくれた。たおやかに去っていく姿は確かに白鷺っぽい感じがする。名は体を表すというやつなんだろう。よく知らないけど。
温かい湯呑みを持って手を温めながら七輪のそばにいると、密閉性の低いお屋敷でも温かい。小さい火鉢に集まるために美女コンビが両側から寄り添っているのでより温かかった。
「しらさぎさん、昨日たすき掛けの方法教えてくれたんだ。無口だけど優しい人ですよね」
「しらさぎはいい子ね」
「だけど妬ましいわね」
「私達も名前を呼んでほしいわ」
「寂しいわね」
「だったらもう教えて下さい……」
やいやい美女達は話し合っていたけれど、私が2つめのみかんを食べる頃には決心がついたらしい。
「当ててほしかったけど仕方ないわ」
「呼んで欲しいからしょうがないのよね」
「なんかすみません」
「ルリさま、こっちへ来て」
「さあさあ立って一緒に来て」
私の手をそれぞれ両側で取って誘導するように美女コンビが歩いていく。にこにこと笑いながら建物の中を通って主屋の方へと歩いているようだった。
「ルリさまに私達のことを見せるわね」
「私達はあそこにいるのよ」




