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下駄の音5

「自分の気持ちを曲げてでも願いを叶えてあげるって言われたらどうする?」

「引くわー」

「ですよね」


 外の世界でようやく、私の意見に同意してくれる人を見付けられた。

 ありがとう、ノビくん。ナチュラルに女子の集団に混じってるけど君なら不思議と違和感ない。


「そういうの重くね? 後からあーして欲しかったとか言われてもそん時言えばよくねって思うわー。それでいつもフラれるしね」

「それはわかんないですけど」

「まぁあんまり気持ちに差があるときついかもねえ」


 実行委員であるノビくんがじゃんけんで負けたため、うちのクラスの出し物が晴れて洋風お化け屋敷に決定した。早速役割分担が決められ、登校日の度に文化祭の準備が進められていくことになる。飲食系の出し物をするところなどはもっと力が入っていて登校日が多いけれど、うちは夏休み中は材料の買い込みメインで二学期から本気出すことにするらしい。

 セットの小物係に任命された私は同じ係の子達とホームセンターに併設されているフードコーナーで作戦会議という名の休憩中である。パラソルがついていると言っても外にあるテーブルは暑く、今日もしっかりくっついてきたスズメのすずめくんは私が頼んだウーロン茶の紙コップに寄り添って涼を取りつつ粟穂を啄んでいる。すずめくんがいるせいか、私達のところだけやけにおこぼれを貰いに来る野生のスズメが多かった。


「しかしまあルリちゃんにのろけられる日が来るとはね」

「別にのろけてないんですけど」

「のろけでしょ張り倒すぞ。うそうそ、元気になってくれて嬉しいわ」

「みかぽん……」


 同じ係になったのは男子が百田くんとノビくんと欠席しているあと一人、あとは仲良しグループの3人と私の7人である。気心の知れた人同士だし、私が夏休みに入って音信不通だったのを心配してくれていた人達でもあるので、こうしてまた一緒に過ごせるのが嬉しかった。

 ちなみに百田くんはひとつ離れたテーブルで黙って話を聞いている。顔色を悪くしながらも面倒を見ようとしてくれるのはさすが寺の息子だった。


「でもルリが嫌だって思うなら嫌って言ったほうがいいよ。我慢してても長続きしないし」

「うん、でも何か、親切にしてくれてるのに対して文句つけるのってちょっと心苦しくもあって」

「今暮らしてるお家の人なんでしょ? 気を使うのはわかるけどさ、ギクシャクしたら余計面倒だし」

「つか彼ピと同じ屋根の下ってマジでマンガかよ。ミノさん主人公かよ」

「ノビは黙ってて!」

「そういうとこがモテないのよ!」

「だからフラレるんだよ」

「うわ俺フルボッコじゃん」

「野草のくせに調子乗るからよ」

「野草言うなや! 野蒜ノビルマジうめーかんな!」


 ギャーギャー騒がしいのがやかましくも心地良い。前はあんまり騒ぐのは好きじゃなかったけれど、お屋敷では人の声がうるさいということはないので懐かしく感じた。

 紙コップにもらったお冷を傾けてすずめくんにあげながらたこ焼きの残りを食べていると、カロンカロンと聞き覚えのある音が聞こえてきてぎょっとする。

 振り返ると思った通り、天狗の仮面を被ったお見習いさんが手を上げて近付いてきていた。


「やーこんにちはー奇遇だねえ」

「こ、こんにちは」


 さすがに街では目立つと思ったのか、いつもの山伏姿ではなく着古したジャージを着用している。しかし顔に依然付けられたままの天狗のお面がその努力を無に帰していた。よく見ると下駄もそのままなので何で服だけ着替えたのかむしろ不思議なくらいである。

 突然の変な人登場にテーブルは静まり返り、友達は怪しい天狗仮面と私を胡乱な目で見ている。


「学校のお友達なの? こんにちは」

「どうも……」

「おっさんその仮面マジヤバイっすね! 通報されないんですか?」

「おっさん……通報……」


 ノビくんの必殺空気読まない発言によって、天狗のお見習いさんはショックを受けてよろめいた。しかし何とか踏みとどまって、スーパーの袋から取り出したものを私に渡してきた。


「暑い中お疲れ様。これあげる」

「あ、ありがとうございます」

「じゃあまた、彼にもよろしく言っといてねー」


 天狗の長鼻をくるりと回して、お見習いさんはカロンカロンと歩いて去っていった。手に持っているビニール袋はホームセンターの隣りにあるスーパーのロゴが付いている。半透明の袋からは沢山のお菓子やお惣菜が見えていた。


「……ルリ、あんた交友関係大丈夫?」

「あ、えーっと、今の人はなんというか、ご近所さんで」

「どんな奇想天外な場所に行ったらあんなご近所さん出来るのよ」

「うおっ! これバーデンダッツの引換券じゃん!! ミノさんでかした! 換え行こうぜ!!」

「なに人にたかってんの」

「人数分あるし! 俺が皆の分引き換えてくっから! アイスお願いします!」

「貰い物だし別にいいけど」


 街の風景から異様に浮いていた不審者仮面は、お高めアイスによって一気に株を上げた。






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