変わりゆくもの3
「人の怨念だって時間かけて沈めたり清めたりすげー大変なんだぞ。神仏は器もデカイから穢れもデカイし、何で気が済むかわかんねーし」
「でもミコト様、すごく優しくていい人だし、傷のことも悲しんでるくらいだし、信仰することでご神力が増すみたいだし、出来ることがあるならやってあげたい」
「ミノさん優しすぎ天使かよ。野球部マネやって」
「いやです」
「いやかー」
「ノビは静かにしてろ。信仰で回復するならいけるかもな。箕坂のことすげー気に入ってるみたいだし」
一般的に怨念的なものをどうにかするには、宥める系と叱る系とぶっこわす系があるらしい。どれも人間や幽霊に対するものだけれど、その中でも宥める系は1番穏便に終わるので望ましい解決方法だと百田くんは教えてくれた。そしてあくまでも一般論として、と前置きした後にアドバイスをくれる。
「穢れっつーくらいだから、とにかく清潔にすること。神様は特に清らかさは好きだからな。水垢離が1番だけど風呂入ってしっかり綺麗に体洗うでも効果あると思う。普通は肉食も控えた方が良いけど、体壊すと意味ないから今平気なら気にしなくて良いかもしれん」
「なるほど」
「あと毎日拝んで、今日も一日元気ですありがとうございますみたいな気持ちで手を合わせるのがいいんじゃねーか? 願い事は叶えばお互い良い結果になるだろうけどリスクあるからな。特に無理めな願い事とか恨みとかは絶対やめとけよ」
「ありがとう」
お風呂は毎日入っているけれど、今日からはもっと意識して体を洗ってみよう。肉食はどうなのかわからないからお屋敷で訊いてみるとして、あとはミコト様が作った小さい社に毎日お参りすればいいだろうか。
色々と考えていると、静かにスマホをいじっていたノビくんが良いこと思いついた! みたいな顔をした。
「願い事のほうが経験値デカイなら、ぜってー叶う願い事とかすればいんじゃね? そのミコトサマって人をミノさんは見えてるわけっしょ? 握手して下さいとか挨拶して下さいとかにすれば?」
「ノビくん……意外と頭良いかもしれない」
「かもしれないじゃねーよ? 俺こう見えて成績すんげー良いからね?」
「いやまぁ、試していいかもしれんけど、ノビお前軽々しく勧めんなよ。なんだ経験値って」
「経験値稼いでレベル上げてHP全快さすって話じゃん要は」
どういう聞き方をしていたらそういう要約が出来るのかよくわからないけれど、当たらずといえども遠からずかもしれない。自分で考えているより色んなアイデアを貰うことが出来たし、何より自分の状況を誰かに話せたというのが大きかった。
神様と暮らしているとか、普通の人に言っても病院送りにされるだけだろう。百田くんが心配してアドバイスをくれるのは、それを本当だと信じてくれているからだ。百田くんは私を助けられないという状況でもどかしいかもしれないけれど、この状況をこっちの世界で肯定してくれるというだけでもありがたい。ノビくんもどこまで信じているかわからないけれどだけど私達の話に乗ってくれているし。
「2人ともありがとう。すごく助かった」
「いや俺らは応援くらいしか出来ないけどな。穢れがないならない方がいいだろうし、箕坂がそうするってんならそれが1番じゃねーか」
「そうそう。ミノさん面白いしな。いざとなったらまた家出とかしちゃえよ。オールでカラオケくらいなら付き合うし」
「いや家出してたわけじゃないから……」
ノビくんの言動はすずめくんのセンサーに引っかかりやすいらしく、私の手の間から抜け出して弾丸のように攻撃していた。ノビくんは予鈴まで逃げ回る羽目になったけれど、楽しそうにドタドタしていたため意外と仲良しになれそうな一人と一羽に見えた。




