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マスクドマン6

 ぼんやりと白い敷石を眺めている。小さな砂が砂利になり、小石が岩になるのが州浜の世界だ。作りかけの池はまだ何も入っていなくて、ミコト様と金魚でも作ろうかと相談していたのを思い出した。


「この庭、灯りがない」

「そういえばそうだな。灯籠も良いかも知れぬ」


 傍らで響いた声に顔を上げると、ミコト様が懐からミニチュアの石灯籠を取り出して手渡してきた。手と手が触れ合うと、そっと微笑んで切れ長の目が和らぐ。それをぼんやり見つめていると、いつものようにその顔が恥ずかしそうに頬を赤くした。


「ミコト様、怪我治ってる」

「その、夢の中であるゆえ……少し繕うてみた」

「全部見えてるとイケメン度がめっちゃ上がりますね」

「いけめ……?」


 半分隠れた状態でも美しかった涼しげな瞳は、両方そろうと凄みが増す。頬も顎も均整の取れた美しさが際立って、ちょっと圧倒されるほどの美形になっていた。頬を僅かに染めているのすら絵になっている。表情の一つ一つが飽きない。


「ミコト様、怪我ない方が断然いいですよ。すごくかっこいいですよ」

「あぅ、そ、そ、そうか、その」

「でもちょっと迫力ありすぎて半分くらいでもいいかも」

「えぇ……」


 複雑そうな顔を浮かべても絵になるのだからイケメンは狡いと思う。写メを撮ろうと思ってスマホを探すけれど見つからない。


「そうか、これ、夢だっけ」

「そうだ。少しぼんやりするだろうが、手を繋いでいてくれるだろうか? あいやその、盗人ぬすびとに悪さをされぬように、その守るためもあるから!」


 夢というのは、見ている人の無意識に大きく左右されるものらしい。夢路を通って入ったものの影響も受けるけれど、逆に相手に影響を与えることも出来るほどなのだとか。夢が少し怖いものだというのはあらかじめ説明していたので、ミコト様がそばにいて怖い展開にならないように気を付けてくれるようだった。


 手を伸ばすと、大きなミコト様の手がしっかりと包んでくれる。ふと自分の腕を見ると、いつもの服の袖ではなく着物だった。しかも、何枚にも重ねて複雑に着込んである。

 十二単ってやつだこれ。

 ミコト様を見上げると、サッと露骨に目をそらされた。じーっと見つめていると、ぴんと伸びていた背筋が徐々に丸くなってオタオタと狼狽えている。


「その……ルリよ、怒っているだろうか、その、」

「やっぱりミコト様が何かした結果なんですね」

「すまぬ……ルリは普段は今様の服を着ているし、あまりそういった姿を見ることがなく……」


 結構長い間生きているミコト様としては、着物姿の方が落ち着くらしい。お互いに平安貴族っぽい服装なので、お屋敷ととても合っている。


「まあ、何か昔の時代になったみたいでこれも楽しいことは楽しいですけど。夢だからか重くないし」

「そ、そうか。楽しいか。良かった」

「でも平安時代の女の人って顔隠してたんじゃないですか? あのーあれ、アレ越しに話とかしてたんですよね。アレ下ろさなくていいんですか?」

「御簾か、その、しかし、いつも私とルリはこれこのように話しているし、わざわざ距離を取るのは」

「ホイホイ顔合わせちゃいけないんじゃないんですか?」

「ほほっ、ホイホイでは……ないと! 私はその、そんなつもりではその」

「あの木の扇子みたいなやつないんですか。顔隠すやつ」

「ルリ……」


 ミコト様がしょんぼりしてきたので、この辺でやめておくことにした。そもそも初対面のときは御簾が下りていたのに、いつのまにやら手を繋ぐまで距離が縮まっている。今はめちゃくちゃかさばる十二単を着ているのであれだけれど、普段着のときは州浜遊びなんかの最中に肘が当たったりすることもあるし、切った爪楊枝で桶を作っている時などは顔を突き合わせながら作業することもある。事あるごとに恥ずかしがっているミコト様だけれど、それでも随分慣れてきたのだろうか。引き篭もりの社会復帰の手助けになっていればいいけれど。


「それでその、いつも泣き声が聞こえるとか」

「あ、そうでした。秋の庭の方なのでこっちです」


 あるきにくい十二単で転ばないように気を付けながら、ミコト様に手を引かれて主屋を出て、東の建物経由で北の建物まで移動する。その途中で、いつものようにしくしくと泣く声が聞こえてきた。


「ほら」

「たしかに、幼子のすすり泣くのが聞こえるな」

「いつもあそこの木の下にしゃがんでないてるんですよ……いた、あそこ」


 十二単だけど夢の中なので気にせずに外へ出る。草履を履いて庭の奥の方を指さすと、ミコト様が頷いた。


「あぁ、なるほど。わかった」


 ミコト様は納得したように頷いて、それから私に手を差し伸べながらもその男の子へ近付く。近くに来たところで一旦私を振り返って手を離したかと思うと、ミコト様は素手でその男の子の首を後ろから掴み上げた。まるで猫を持ち上げているかの気楽さでその子を持ち上げたままこっちを振り返る。






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