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マスクドマン2

 夢を見た。しくしくと誰かが泣いている。悲しそうにすすり泣く声を頼りにお屋敷を歩き回る。夢の中のお屋敷は昼間なのに薄暗く、誰もいない。あてがわれている東の建物から渡り廊下を経て秋の庭に面する北側の建物に行くと、しゃくりあげる声が大きくなってきた。庭に降りてあちこち探し回ると、一本の木の下で小さな子供がしゃがみこみ、俯いて体を震わせている。


 白っぽい服は膝丈くらいの着物で、それよりは少し色のついた帯を締めている。木の幹の方に体を向けているので背中しか見えないけれどすずめくんより小柄で痩せていて、しゃがんだ状態でかすかに見えている真っ白くて細い足が裸なのが痛ましいほどだ。


「どうしたの?」


 問いかけても返事はしゃっくりだけ。ひくひくと肩を上下させて腕で忙しく顔を拭っている。

 そもそもお屋敷にこんな子がいただろうか。そう思いながら側にしゃがんで何度か声を掛けるけれど泣いたまま。そっとしておいてあげた方がいいかもしれないと立ち上がって戻ろうとすると、不意に手が引っ張られた。


振り返ると、俯いてしくしく泣いている子供が片手を伸ばしていた。

 俯いて顔は見えないものの、私の指を二本ぎゅっと掴んでいる力だけはしっかりとしている。


どうかしたのか、おやつでも食べるかと訊こうと口を開いた瞬間、世界がぐにゃりと歪む。夢から覚める時の引っ張られるような感覚を感じながら、ゆっくりと顔を上げる子供が視界に入る。その時はそれが何故か怖く感じたけれど、その感覚も一緒に引っ張られて遠くなった。


「ルリさまぁ、ごはん出来てますよぉ〜?」


 戸の向こう側からすずめくんが声を掛けて来ている。目を開けると、部屋に眩しい光が差し込んでいた。


「いつまでも起きてらっしゃらないので、お加減がお悪いのかと思いました」

「いや別に、寝過ごしちゃっただけ」


 急いで支度をして主屋へ行くと、他の人達はすでに揃っていておひつが回り始めていた。

 妙にソワソワとしていたミコト様が、私と目が合うとビクッとした。


「遅れてすみません」

「イヤッそん、ぜ、待っ」


 何故か挙動不審だけれど怒っていないようだし、ミコト様が挙動不審なのは割といつものことなのでとりあえずお膳の前に座った。ミコト様はちょっと視線をふらふらさせながらもめじろくんにお茶碗を渡している。その顔にはラメの入った塗料で模様を付けた左側だけのお面が付けられていた。マスカレード的な派手なデザインを目指して作ったものだけれど、ミコト様の顔がいいせいか何故かしっくり似合っている。


 なんか高そうな絵の書かれたお皿の上にウィンナーとピクルスっぽいお漬物が乗っている。おひたしの入った小鉢には金魚の絵が描かれていて、小松菜から落ちた胡麻をツンツンと突いていた。いろんなお皿を満遍なく食事に使っているせいかたまに絵の動くお皿や音が鳴るものなどがあるけれど、今ではもう驚かなくなった。

 つやつや光るご飯を食べていると、めじろくんが顔を上げてこっちを見る。


「ルリさま、主様が午後から雨にするそうです。降る前にみかんを採って頂けますか?」

「いいよー。冬の庭はまた雪になるかな?」

「その、ルリは雪が好きなのか? いつも震えて庭に出たがらないようだが」


 確かに冬の庭に雪の多い時は外に出ないというか西の建物にも近寄らないことが多いけれど、なんでミコト様がそれを知ってるのだろう。ご神力で見てたのだろうか。

 たまに眠い時に夏の縁側でこっそり寝転んでいるのもバレてるのだろうか。

 じっとミコト様を見ていると、ミコト様がソワソワし始めて、だんだんしょんぼりし始めた。


「その……すまない……」

「えっ」

「昨日ルリに貰った面を……壊してしまった!」


 ガバッとこっちに向き直ったミコト様がばっと身を伏せた。

 なんでも浮かれてあちこち見せびらかしていたら、中庭の庭で黒い鯉が跳ねてお面を池に叩き落とされてしまったらしい。

 なんだ。見られてはないようだった。


「濡れて鯉と揉み合ってるうちに花などが取れて……藻などが付いてしまい」

「まあちゃっちいやつですからね。材料はまだあるし作ればいいんで大丈夫ですよ」

「すまない……本当に……ルリがせっかく作ってくれたのに……」

「てか池入ったんですかミコト様……」


 どうやらお面を壊したことを気に病んでいたらしい。あんな花盛ったやつなのに。


「また作るんで気にしないでください。てか昨夜も作ってたので」

「そっそうなのか! いやでもひとつひとつ違うものを作ってくれたのに……」


 暇潰しにテキトーに作ってたとは言いにくいほどミコト様が小さくなっている。

 ちょっと可愛いけど落ち込んでるのはかわいそうなので、早速昨夜作ったお面を取りに行くことにした。

 のだけれど。






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