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マスクドマン1

 百田くんはダイレクトメッセージで何度か私に百田家へと来るように説得してきたけれど、私にその意志がないということがわかると「気が変わったらいつでも連絡してこいよ。あと登校日忘れんなよ」とだけ返してくれた。

 非常に面倒見が良い百田くんを心配させてしまったことは申し訳ないけれど、なんだか私にとってネガティブなものしかないのではないかと思いこんでいたお屋敷の外の世界にも心配してくれる人がいるのだと思えて、気持ちが少し楽になった。


「ほ、本当にそれを付けるのか……? それを……?」

「じっとしてて下さい」


 そんなわけで再びお屋敷でわりと暇な日々を過ごしている私は、試行錯誤を重ねながらミコト様のお面制作に励んでいた。


「こう見えて見た目ほど重くないですよ。ほら」

「そういうことではないと思うが……」


 ミコト様の手には、私の力作「メガ盛りマスク」が乗っていた。カラフルな造花とスワロフスキー風シールを存分に使ってデコッたそれを、ミコト様は非常に悩ましげな顔で見つめている。

 最初はミコト様の傷のサイズや痛みがない重さなどを考えて作ったけれど、無地のものよりなにか飾りがあったほうが面白いし、ミコト様も喜んでくれた。なので色々なテーマの仮面を作ってはミコト様に試着してもらっているのだった。


「このようなものはその、ルリのような女子おなごが似合うのでは」

「大丈夫です」

「何が大丈夫なのか……!」

「じっとしてて下さいね、ガーゼ取るんで」


 そっとミコト様の顎辺りを触って固定すると、う、と呻いたミコト様が渋々大人しくなる。ゆっくりと負担にならないように顔の左側を覆う布を取り、重ねられたガーゼを剥がしていくと、黒くなった軟膏が僅かに肌に残る。温かいお湯で絞った手拭いを当てるようにしてそっと拭き取って、新しく薬師如来様のお薬を塗ってまた綺麗なガーゼを重ねていく。


「なんかミコト様の傷、少し良くなってる気がしませんか?」

「気のせいではないか? 相変わらず痛むときもある」

「うーん……」


 ミコト様の傷は輪郭がいびつな形をしているので、変化がわかりづらい。それでも、血が滲んでいた部分は明らかに小さくなっているように感じる。とは言ってもこの傷をジロジロ見ているのは私だけだし、ミコト様に至っては布で覆わない限り鏡に近付こうともしないので確認しようがなかった。

 早く良くなりますように、と祈ると、至近距離で目を瞑っているミコト様がぽわっと赤くなった。このお願いが直に通じるシステム、どの辺りまで有効になってるんだろう。何かオヤツ食べたいとか、南の島に行ってみたいとかそういうのまで筒抜けだったらちょっと気まずい。


「る、ルリ、そのぅ……まだか」

「まだですね」


 妙薬らしい軟膏をそっと塗りつつ、ぷるぷる震えてくるミコト様の睫毛を存分に鑑賞してからガーゼを当て直し、ぐったりとなったミコト様にそっとお面を被せた。フラワーでデコラティブなミコト様になって中々似合っていた。微妙な顔をしていた本人も持ち上げていると恥ずかしそうな感じから満更でもない感じになり、午後には慣れて普通の態度になっている。

 マスカレード風とか寄せ書き風とか色々作っているけれど、変わり種のマスクの方が実は喜んでいそうだと感じていたら、私がワクワクした顔をしているのを見たいかららしいとめじろくんが教えてくれた。

 これだからお面制作はやめられない。






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