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アウトサイド5

 非常に気まずい空気を変えてくれたのは、もうひとりの男子高校生だった。


「ふぃ〜。おっ? おっ? もーしーかーして? あのーアレだわ、ミノ……ミノ……」

「箕坂です」

「そうだわミノサカさんだわ! 俺わかる? ノビノビ。同じクラスの」


 自己申告の通り非常にのびのびした通称ノビくんは、野球部なのにチャラいというので学年的にそこそこ有名な人だった。怖い監督の前ではちゃんとしてるらしいけど、大体廊下で見かけるときはこの人の喋り方疲れないんだろうかと思ってしまうくらいにチャラい。坊主頭が茶髪のロン毛に見えるほどにチャラい。

 今年同じクラスになったけれどほとんど喋ったことがないのに、非常にフレンドリーである。ぎゅっと再び私にしがみついたすずめくんにも、ミコト様にもちぃーすと気軽に挨拶して、蝋梅さんには超美人っすね! と握手を求めている。


「こんなとこで会うとかマジ偶然じゃね? つかモモ知らね?」

「今トイレ入っていったよ」

「入れ違いとかまじかー……あいつもキタか。ちょっと様子見てくるわ。ミノさんも腹壊すなよ!」


 じゃーまた学校でうぇーい! となぜか指をくっつけたピースみたいな古めかしいポーズを取ってノビくんは颯爽と男子トイレへと去っていった。全く空気を読まない人だけれど、そのお陰で気まずさが流されていった。一種の清々しさのようなものが残っていて、彼があんなチャラいのに色んな人に好意的に見られているかがよくわかった。


「ミコト様、帰りましょうか」


 立派な大人だというのに外国で迷子になった子供のような風情で立っていたミコト様に声をかけると、びくっと肩を震わせて恐る恐るこちらを見た。そのまま固まってしまったミコト様に手を差し出すとじっとそれを見下ろしている。それからじわじわと迷いながら差し出してきた手は、すずめくんがガシッと捕まえて私の手にジョイントさせた。先程までとは違ってごきげんになったすずめくんは、反対側の私の手にしがみついている。


「ルリさま、ミコト様、蝋梅、早く行きましょう!」

「そだね。大体材料も揃ったし」

「またあの無礼者が近付いてきたら困ります。それにパンケーキの時間もそろそろです!」


 ぐいぐいと引っ張られて、私が歩き出し、それにつられてミコト様も足を踏み出した。振り返るとまだ怒られた犬のようにしょんぼり心細そうな顔をしていたので、ぎゅっと握った手に力を込める。すると少し目を見開いて、ガーゼのない右頬をじわじわと赤くした。


「……ル、ルリ、その、……その、」

「ミコト様、早く行きましょう。パンケーキですよ」

「ぱ、ぱんとけえきか」

「パンケーキはパンとケーキの中間っぽいやつです」

「なるほど、それは美味しそうだな」

「あっ2名で予約なので、ミコト様は車で待っていてください!」

「えっ……」


 すずめくんにズバッと切られて、最近パンが好きなミコト様はショックな顔を隠しきれないようだった。ここまで来て主であるミコト様にパンケーキの座を渡さないとは、すずめくんはよほど限定のパンケーキを食べたかったらしい。

 私は別に絶対パンケーキってほどではなかったのですずめくんとミコト様で行けばと提案したけれど、両方から却下されてしまった。持ち帰りもあるお店らしいので、私達は限定のをお店で食べて、車で待機のミコト様と蝋梅さんには持ち帰りの普通のやつを買うことになった。


 パンケーキ、パンケーキ、とお店に入ってからもワクワクした顔で待ちかねているすずめくんはすっかり元通りになっていて少し安心する。


「うわぁ……! マンゴー、たくさんですね! ルリさま、この大きいのあげます!」

「ありがとう。クリームもたくさん食べていいよ」

「はい! このクリーム、あっさりで美味しいです!」


 ドーンとマンゴーが山盛りになったパンケーキを食べながらすずめくんがはしゃいでいる。もう吹っ切れたのかいつもの呼び方をしているけれど、子供にサマ付けさせてる……と周囲が少しヒソヒソしていて若干気まずかった。






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