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一歩、踏み出す6

 神様の力は偉大だ。


「んーと……あ、それですルリさま。パスワードはこれ」

「62574の……」


 お屋敷でネットが使えるようになった。仕組みはわからない。

 ここは簡単に言うとミコト様が創っている場所で、現実とはちょっと違うところがある。ミコト様の神力で間取りや庭などが動かせる上に、ミコト様が創りたいと思ったものを作り出すことが出来る世界なのだそうだ。例えば水道配管や電化製品やベッドなどは、大体再現可能らしい。なんでかというと、神社のある付近の土地はミコト様の力の届く場所で、そのあたりにあるものであればミコト様が見ようと思うと見ることが出来る。それで見聞きしたものや説明されたものは自分で創り出すことができるそうだ。この辺りにない例えばロケットとか発電所とかは多分無理ということだったけれど、そんなの出来なくても十分神様の創造力すごい。


「メール出来たら、すずめはとても嬉しいです。連絡も楽ですし通販も出来ますし」

「すずめくんってめっちゃ現代っ子だよね……」

「すずめは便利なものは好きです!」


 ネット開通で一番喜んでいたのはすずめくんだった。わざわざ買いに行かなくても好きな銘柄のお米をゲットできるのが嬉しいらしい。タブレットを買ってきた日はぽちぽちと首を傾げつつ人差し指のみで使っていたけれど、今ではスワイプもダブルタップもお手の物である。


「支払いとかどうなってんの? 神社の住所で買ってるの?」

「主様名義の銀行口座があるので大丈夫です。荷物は外で暮らすものが近所に住んでいるので、受け取って連絡してもらいます」

「ミコト様、口座あるんだ……」

「もちろんですよ。きちんとこの神社も登録していますし、神主となっている者もいますよ。ほとんど顔を出しませんけども」


 ミコト様本人はこのお屋敷でずーっと引きこもった生活をしていたのだけれど、すずめくん達お屋敷の人々は時代時代に合わせて馴染むように色々と手を回していたらしい。


「すずめ達も主様も、人の世から離れると段々と曖昧なものになってしまうのです。それは悪いことではないのですが、すずめは現し世が好きなのでまだちゃんとすずめでいたいのです」

「そうなんだ。すずめくん、お出かけするの好きだもんね」

「はい!」


 ふくっとしたほっぺで笑うすずめくんは、目まぐるしく変わる人間の生活が好きなようだった。子供の姿で買い物に行くこともあるし、スズメの姿で公園でのんびりすることもあるらしい。反対にめじろくんはどちらかというと出不精でお屋敷の庭でのんびりしている方が好きだけれど、最近はいろんな果物が輸入されてスーパーに並んだりするのですずめくんのお土産を楽しみにしているらしい。


「ルリ……すずめ……、いきなり話し掛けられたのだが、これはもう妖になってしまったのだろうか……?」

「ミコト様、それ動画広告です」


 タブレットを前に首をひねっているミコト様は長い間生きているせいか、新しいものにあまりついていけていない。ネットで開いたページも端から一言一句読んでいくのでとても時間が掛かるし、ネットスラングとかで真剣に考え込んでしまっているのだ。

 ミコト様は自分がよくわからないものであってもお屋敷の皆が喜ぶのであればその方が良いという考えなので、新しいものをあれこれおねだりされては導入を検討している。


「ルリさま、前は主様、ネットはよくわからないからといって延ばし延ばしにしていたのです。ルリさまがご所望だと知って一生懸命調べて付けて下すったんです。すずめはルリさまが来てくれてとても嬉しいです」


 動画サイトに首を傾げつつも釘付けになっているミコト様を見ながら、すずめくんがこそっと耳打ちしてくれた。柔らかい焦げ茶色の髪の頭をふわふわ撫でると、すずめくんはにこにこしてぎゅっと抱き付いてきた。最近、たまにやってくれるこのぎゅっがとても可愛い。


「ルリさま、これは何かしら」

「どんな味がするのかしら」

「このお鍋、蓋がとても頑丈なのね」

「どうして煮物が早く出来るのかしら」


 もうひとつのタブレットを貰った紅梅さん・白梅さんコンビは、レシピサイトに夢中である。あれこれと知らない料理や調味料、道具などを眺めてはキャッキャと献立を考えているのだ。

 他のお屋敷で仕えている人達も新しい技術に興味津々らしく、タブレットは色んな人が触って遊んでいた。興味なさそうなのは鞠くらいである。きちんと元の綺麗な鞠に戻って帰ってきた鞠はぽーんと跳ねるように腕の中に飛び込んできて、それからいつも以上に私の近くをコロコロしていた。


 今もスマホをいじる私の肩や腕から器用に落ちないように移動しながら、時折弾んだりして遊んでいる。たまに画面を覗き込むようにしているけれど、目がないので見えているのかどうかはわからない。

 つるつるした鞠をたまに撫でながら、私は沢山届いていたメールをひとつひとつ開けていった。






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