こいのよかん21
うちの鯉に比べておとなしいと思ってたけど、やっぱりおとなしい鯉なんて存在しないのかもしれない。
「静かにしなさーい!!」
「修行いやあああああああ!!!」
「なんてダメな鯉!! すずめは許しません!!」
「百田に帰るううううううう!!!」
ビタンビタン動き回る鯉とそれを叱るすずめくんとの取っ組み合いが始まった。小柄とはいえすずめくんの方が体は大きいのに、激しすぎる動きで暴れる鯉は勢いがすごすぎて互角の戦いになっている。
「あるじさま!! なにをボーッとなさってるんですか!!」
「はわ、わ、」
「早くこの物分かりのわるい鯉にウロコを貼り付けてください!」
「わ、わかった」
希薄に気圧されているミコト様は、すずめくんに言われるままにオロオロとウロコを鯉の胴体に戻し始めた。
「鯉いやああああああああ!!」
「嫌々ばかり言って!! なんて情けない鯉!!」
「すぐ龍になるうううううう!!!」
「めじろ! ルリさまも手伝ってください!」
「あ、はい」
びしっと指示されて、私はめじろくんと共に本日2回目の鯉を押さえつける作業にとりかかった。激しく暴れる鯉は龍になろうとしていただけあるのか、うちの鯉よりも力が強い気がする。ウロコの間からのぞいている龍の脚っぽいものも、ブンブンと宙を掻いて抵抗していた。
「放せええええ!!!」
「こ、鯉よ……! おとなしゅうするがよい、そなたは鯉に戻り百田を支えよ!」
「龍になるううううすぐなるううううかえるうううう!!!」
「わがまま鯉!! 堪忍なさい!!」
龍のかぎ爪がウロコをガシッと掴み、ウロコを貼り付けようとするミコト様と押し合っている。パンを捏ねるのが得意なミコト様にグググ……と抵抗している鯉は、相当力持ちのようだ。
「ルリさま! 今の隙にほかのウロコを貼り付けてください!」
「えっ私?!」
「お早く!」
急かされて、私はウロコを拾って鯉に近付ける。ビタビタと動き続ける鯉にウロコを近付けるのも難しいし、そもそも一度剥がれたウロコをくっつける方法など習ったこともない。
「ミコト様、どうするんですかこれ」
「うむルリよ、神力を込めてこやつの内なる力を封ずるように嵌めよ」
「全然わかんない」
ただ押さえつけるだけではダメそうなことだけはわかったものの、私に神力がどうこうみたいな能力はまだない。とりあえず私はウロコを鯉の胴体に押し付け、ミコト様の袖をとって上から押さえた。ミコト様は神様だけあってなんか神々しいオーラを全体に纏っているので、それでどうにかなってほしい。
「ル、ルリよ、私の袖を雑巾代わりにしておらぬか?!」
「拭いてるんじゃないですよミコト様。ミコト様のすごい力に助けてもらってるんです。ミコト様はすごい神様なので」
「そ、そうか、ならばよいか」
袖越しにぐいぐい押し付けていると、パチッとウロコがはまる音と感触がした。ミコト様が取っ組み合いしているうちにもう一枚ウロコを取って、同じようにはめていく。やがてミコト様が力比べに勝って、最後の一枚を鯉の体に押し付けた。
「鯉よ、その力を封じ、百田の家にて慎ましく過ごすがよい!」
「貴様らあああああ一生許さねえからなあああああ!!!」
礼儀に厳しい百田家では厳しく怒られそうな断末魔と共に鯉の体が光る。
全てが終わったあと、私たちは肩で息を切らして脱力した。




