こいのよかん18
「わたくしは百田家の生まれ、当代の曽祖父龍太郎様の手により育てられた鯉にございます」
百田くんから預かった鯉は、声が甲高いものの丁寧な言葉遣いで喋り始めた。
「メスなんだ……」
「そのようだな……」
「錦の模様もなく、食用として連れてこられたわたくしは、孵化した当初より体が小さく、龍太郎様に手ずから餌をいただいて大きくなりました」
すごくよく喋っている。
そして、この鯉も結構長生きなようだ。鯉の平均寿命がどれくらいなのか知らないけど、今の百田家は百田くんのお父さんが住職をしているので、さらにその曽祖父に育てられたのなら100年近く経っていてもおかしくはない。
「未熟なわたくしを龍太郎様は食べることなく、丁寧に育ててくださいました。まだ学校へ通っていた龍太郎様は夕暮れ時になると池の辺りに座り、様々な話を語りかけてくれたものです」
「語りかけられたから喋るのが上手なんですかね」
「どうだろうか……百田の者はきちんとしておるゆえ、それが影響しておるのやもしれぬ」
言葉を返すとうちのお屋敷評価にダメージが来そうな発言をしているミコト様は、プルプルしながら喋る鯉に耳を傾けている。昔話に興味が湧いたようだ。
「わたくしは常々、龍太郎様の御恩に報いたいと思っておりました。しかし未熟なわたくしの力及ばず、時は流れて龍太郎様はお年を召し、やがて病を得て……」
「おお、それはつらかったろうに」
「住まう池がわたくしの涙で溢れることにならなかったのは、龍太郎様が遺したお子が百田の家を継いでいらっしゃったからです」
情に流されるタイプのミコト様は、か細く震える鯉の声に同情し、袖で目元を拭っていた。恋愛ドラマとかでよく号泣しているし、お涙頂戴に弱すぎるんじゃないかと時々心配になる。詐欺に遭わないか心配だ。
「わたくしはお庭から百田のお家を見守って参りました。百田のお家に住まう方々はどなたも志高く気はまっすぐ、龍太郎様の面影を宿しておいでです。そしてどなたもわたくしを大事に育ててくださいました。わたくしはいつか……いつかこのお家のために役立ちたいと願っていたのです」
「うむ……うむ……!」
すっかり話に飲み込まれている。
鯉と神様が泣きながら話している状態、見てるとちょっとシュールだ。ミコト様の涙を拭くためのハンカチを持ってくるべきか考えていると、すずめくんが桶を持ってきて手を洗わせてくれた。めじろくんはティッシュを持ってきてミコト様に差し出している。
平常運転な鳥コンビを見て、私はちょっとホッとした。




