こいのよかん15
鯉のお腹に生えるフサフサの毛。
その正体が何なのかによって、お屋敷の雰囲気が大きく変わる気がする。
「……頭だけってことはない……んじゃない? ほら、百田くんとこの鯉はちっちゃい龍になってるわけだし、人間だったらちっちゃい人間として出てくるかも」
「ルリさま、幼い龍はみなこのような大きさですよ」
「そうなの?」
「もっと小さいのも見たことがあります」
すずめくんの言葉に、ミコト様も頷いていた。
龍、想像していたよりもずっと身近なサイズ感らしい。空を悠々と飛ぶ巨大なニョロニョロした姿を思い浮かべていたけど、六畳間でも邪魔にならないサイズの龍もいるそうだ。なんか想像したらかわいい。
「でも人間はこの大きさってことはありませんよ」
「……赤ちゃんとか」
「赤ちゃんにこんなしっかり毛が生えてることがあります?」
赤ちゃんの髪の毛は確かに細くてぽわぽわ生えてる気がする。一方、鯉のウロコが剥がれた場所から見えているのは、みっしり密集して生えた太い毛だ。どれだけ毛根が立派な赤ちゃんでも、この密度はちょっと考えにくい。そして赤ちゃんだとしたらお腹にフサフサが生えてることになる。
「うーん……仮に生首状態だったとして……ミコト様」
「うむ?」
「どうするんですか?」
「うむ?!」
困った顔で見ているだけだったミコト様に振ってみると、ミコト様はとても驚いていた。
「ど、どうすると」
「鯉が進化しちゃうと、百田くんとこにも戻せないですし。この場合ってうちで引き取ることになるんですよね?」
「う、うむ……いや龍ならば水の気の強いところに行った方がよいが……」
「このフサフサは?」
「これは……何であろう……わからぬ……」
たまに口を動かして「エ゛サァ……」とか呟いている鯉に、ミコト様も困惑していた。フサフサしている理由はやっぱりわからないようだ。神様も困惑させるほどの進化すごい。
「タヌキだったら裏山に仲間がいるし、ネコでもかわいいから大丈夫ですけど、人間だったら……」
「ひ、人がこのように生まれるとは聞いたこともないが」
リアルな想像をしてしまったのか、ミコト様が一歩下がった。
そこにめじろくんがさらに追い打ちをかける。
「もしこの鯉が人間になったとしたら、我が物顔でお屋敷を歩き回るでしょうね」
「それは……」
「鯉の姿でさえ騒がしいのですから、大きくなればさぞうるさいでしょう」
「うぅむ……」
「鯉はルリさまにご執心でしたから、ルリさまにますます付き纏うでしょうね」
「そっそれは駄目だ!」
めじろくんの言葉に慌てたミコト様は、近くに落ちていたウロコを拾い上げる。そしてそのウロコをフサフサが生えた場所に押しつけた。
ぱちんと音がして、そのウロコが鯉のお腹にくっつく。
「えぇ……?」




