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こいのよかん11

 スミレの花が入っている小さな花瓶の近くに落ちた、黒いウロコ。


「……」


 テーブルを囲んでいた私とミコト様、すずめくん、めじろくんは、しばし無言になってそれを見つめてしまった。


「……なんてダメな鯉たち!」

「す、すずめや、落ち着かぬか、これめじろ」


 ちいさな般若となって席を立とうとしたすずめくんに、めじろくんがさっとコップを渡し、みかんジュースのおかわりをたっぷり注いだ。すずめくんはそれをグビグビと一気飲みしてタンとコップを置く。めじろくんがすかさずもう一回おかわりを注ぎ、すずめくんがそれを飲み干して、そうして息を吐いた。落ち着いたようだ。


「食事中にこんなものを投げ入れるだなんて! まったくもう!」

「流石に意図して投げたんじゃないと思うよ、ウロコだし」


 ぷりぷり怒っているすずめくんは、サラダを思いっきり頬張りながらも眉を寄せていた。ミコト様が気を使ってサラダのおかわりをそっと皿に載せている。めじろくんは自分のコップにジュースを注いで美味しそうに飲んでいた。


「やっぱり跳びすぎだよね。前もウロコ落ちてたし」

「最近、すぐ散らかすのです。どちらも片付けをしないからすずめは大変です」

「ウロコ剥がれたら血が出たりしないのかな? 病気になりそうだけど」

「こんなもの、すずめが後でくっつけてやります!!」

「ウロコってまたくっつくかなぁ」


 すずめくんによると、鯉たち自身は特に出血したり元気がなかったりする様子はないらしい。あの高さに跳べる時点で元気は有り余ってるんだろうけれど、魚のウロコって生え変わるのだろうか。ウロコが全部取れたら、かなり不気味……いや心配だ。


「うちの鯉は平気かもしれないけど、百田くんちの鯉は元々普通の鯉だし、しばらくしたら返す予定だし、ケガしたままだと弱るかも」

「おお、それは困るな。魚に詳しい神に薬を融通してもらったほうがよいかもしれぬ」

「ミコト様、それはそれで別の困る事態が起こりそうなんですけど」


 神様特製の薬はよく効くけれど、効きすぎて一般向けとはとてもいえないのが玉に瑕だ。百田くんちの鯉に塗ったら、なんかレベルアップしてうちみたいに喋るようになるかもしれない。それで返品不可になったらうちの中庭に鯉のおしゃべりが響き渡るようになりそう。


 私たちはとりあえず朝食を食べ終えて、片付けをしてから鯉の様子を見ることにした。

 テーブルが置いてあった場所から池までの間にも、点々と黒いウロコが落ちている。


「あ、これ銀色だ。裏側は色が違うんですね」

「そのようだな。えらくギラギラしておるようだが」


 ミコト様は懐紙を取り出して、落ちているウロコを丁寧に拾っていた。鱗は外側の部分はよく知っている鯉の黒色で、内側はアルミホイルみたいにギラギラしたシルバーになっている。てっきり裏も黒だと思っていたけれど、魚を捌き慣れているミコト様によると裏表で色が違うことは特に珍しいことではないようだ。


「あるじさまーるりさまー!」


 私たちより先に大きな岩に近付いていたすずめくんとめじろくんが、私たちを手招きして呼ぶ。

 近付いて覗き込み、私はあっと声を上げた。






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