こいのよかん7
「これは……」
奇行をしがちな鯉同士を顔合わせさせた翌朝。
私とミコト様は、餌を持って中庭に降り、揃って微妙な顔をした。
でろん、でろん。
池を囲む岩のひとつに、鯉が2匹載っている。
「……」
「う、うむ。なかなかに打ち解けておる……ようだな」
「そうですかね?」
「うぅむ……」
うつろな眼差しを空に向けている鯉2匹は、ピクリとも動かない。
死んだ魚を池から引き上げて一旦置いておいた、と説明されれば納得いく光景だ。ぬめった光を放つ黒い鱗に、ひらひらと落ちた桜の花びらが1枚くっつくも、どちらも動きはなかった。
「こうしてでろんとしてると、区別が付かないですね。こっちがうちの鯉かな」
「ル゛ゥ゛リ゛ィ」
「あ、反対だった」
鯉の大きな口とエラが動くと、なんだか生臭い臭いが漂った気がした。喋ると見分けがつくけれど、姿だけではやっぱり見分けがつかない。鯉を返すとき、百田くんちにうっかり喋る方を返してしまわないかちょっと心配だ。
眺めていると、喋らなかった方の鯉が身を捩る。重心が傾いて、岩の傾斜に沿って鯉は池へと戻っていった。ちゃぷんと水の中に入ると、黒い鯉は静かに泳いでいる。一方最初からうちにいた喋る鯉はまだまだ岩の上ででろんとしていた。
「なんか、別にお互い意識してない気が」
「いや、ルリよ、この者らはまだ出会ったばかり。周囲が急いて無理やりくっつけようと動くのは、むしろお互いを遠ざける結果になりかねぬ」
「無理やりくっつけようとは思ってないですけど」
ミコト様はまた少女漫画を読んだらしい。
「ここは温かく見守ってやらねば。私とルリもその、少しずつ距離を近付けて……両想いになれたのだから。先輩として、しかるべき時機にのみ手を貸そう」
「鯉に?」
「2人は同じものの見方をしておるのだから、やがて惹かれ合い……些細な出来事からお互いを意識するようになるものだ」
「鯉が?」
この黒くてちょっと生臭い魚が、ミコト様には少女漫画のキャラにでも見えているのだろうか。
謎の見守り目線とワクワクした気持ちを持ったらしいミコト様は、鯉たちを静観する方向で決めたようだ。私は特に恋の手助けはしたいとは思ってないけども、2匹によくない変化がないのであれば何もしないのには賛成できる。
「さ、ルリよ。他の鯉らに餌をやって私たちもでえとに行かねば」
「決定なんですね」
「これ鯉らよ、恋路を邪魔するでないぞ、でないと馬に蹴られてしまう」
「馬いないですけどね」
ミコト様はロマンスに弱い。真剣に他の鯉に話しかけているのは面白いけれど、デートを楽しみにしているミコト様はとてもかわいいので、私も出かける準備をすることにした。
「ルリよ、たぶれとで鯉に映画などを見せるのはどうだ? 映画でえとは鉄板であろう」
「……鯉界でのデートでも鉄板かな? 映画って」




