こいのよかん5
「というわけで預かってきました」
「なんと……」
スマホでミコト様に連絡し、蝋梅さんに車を回してもらい、百田くんとノビくんに運び込んで貰って、私はくだんの鯉と一緒に家に帰った。
出迎えてくれたミコト様は戸惑いの顔、めじろくんはいつも通りの涼しい顔、すずめくんはほっぺをプクッと膨らませて怒り顔である。
「まあまあまあ! また変なものを増やして! お屋敷に上がるようならすぐに追い出しますからね!」
水色の長方形をしたプラスチックのタライを覗き込んで、すずめくんは鯉に言い聞かせていた。この鯉も黒いので、うちの鯉みたいに叫んで暴れるかもと疑ってるらしい。
「池から跳び出る以外は普通の鯉らしいよ」
「普通の鯉は何度も何度も同じ場所に飛び出したりしません!」
「確かに」
タライをみんなで持って中庭に移動させ、とりあえず池の近くに置く。すずめくんも、ただでさえうちは賑やかなんですから、と文句を言いながらも手伝ってくれた。
「水合わせをしないといけません。面倒なのでとりあえず桶ごと池に入れて温度を合わせておきましょう。あちらの浅いほうに入れます」
「はーい」
すずめくんの音頭でタライを水位の浅い場所に入れる。タライが傾くと鯉は少し暴れたけれど、手を離すと大人しくなった。
しばらくしたら水を混ぜて慣らせる、餌はまだダメ、叫び声を聞いたらすぐ教えるように、などの指示をテキパキ出したすずめくんは、文句を言っていた割にきちんとお世話を考えてくれているようだ。お礼を言うと「あそこのお寺はお世話になってますから」とさらに百田くんの家に贈る菓子折りの算段まで考えていた。頼もしい。
「して、ルリよ。この鯉も跳び上がるというのはわかったが、なぜうちへ……?」
たすきを取って袖を直しながら鯉を眺めていたミコト様が、私に尋ねた。
「ミコト様、私思ったんですけど」
「うむ」
「跳ねてるのは何かを訴えたいからじゃないかって話してましたよね」
「そうだな」
「相手を探してたってことはないですか?」
「相手?」
こてんと首を傾げたミコト様を、私は指差した。次に手首を返して自分を指差し、それから左手を持ち上げて薬指の指輪を指す。
ミコト様は目を大きくしてぱちぱち瞬いた。
「よもや!」
「独り身だったんで、彼女が欲しくて暴れてたのかもしれません」
「そうか、では同じことをしていたのであれば、お互いに相手を求めているやもしれぬと」
「同じくらいアクティブだったら、気も合いそうですよね」
気が合う相手が見付かれば、奇行もおさまるかもしれない。
そしてうまくいけば、叫び声を聞いたり廊下でビチビチ跳ねる姿を見ることもなくなるかもしれない。
いいことづくめだ。ミコト様もそう思ったようで、袖で口を隠しながらにこにこした。
そうして、奇行を繰り返す鯉たちのお見合いが始まったのである。




