こいのよかん4
普通では考えられないような巡り合わせを縁と呼ぶらしいけれども。
まさか、「同じような奇行を繰り返す鯉が間近に2匹もいる」なんて縁が存在するだなんて、うちの神様だって予想しなかったと思う。
「実家の池に鯉が何匹かいるんだけど」
「百田くんのとこお寺だもんね」
「その中の1匹が、やたら外に出て石の上に寝転がってるらしい」
「えぇ……」
聞いたことがある、いや見たことがある話だ。
「えーと、普通の鯉だとそのまま死ぬ……よね?」
「それが、弟の話だとしばらくすると勝手に池に戻るらしい。滑り落ちる感じで。で、しばらくしたらまた出てくるんだと」
「うちと同じだ」
「まさか他にもそんな鯉がいるだなんてな」
もちろん百田くんの実家にいる鯉は普通の鯉なので、石の上に載っている時間は1分もない程度らしい。しかし、しばらく水中で泳いではまた載る、ということを繰り返しているのでエネルギー消費はうちの鯉より多そうだ。
「オレもモモから話聞いて見に行ったわ〜半日見てたけど少なくとも1時間に2回以上は跳び出てた。ウケるよね」
「お前勝手にうちに入り浸りすぎ。もう坊主になれよ」
「オレのキューティクル剃ったらいやん」
勝手知ったる様子で百田家に入り浸っているノビくんも、鯉の奇行を目撃したそうだ。複数人に目撃されてるということは、たまたま跳ねて池から出てしまったとか、偶然が重なったというレベルを超えているのだろう。うちと同じく。
「なんかの病気だったりするのかな」
「いや、じーさんもこんな変な動き見たことないって言ってたらしいぞ。寄生虫かもしれないから一応今は桶に移動させたらしいけど、それでも跳び出そうとするとか」
「桶に戻るのは難易度高そうだね」
桶から出ては死にそうになっていた百田家の鯉は、桶の近くに空のバケツを伏せて置くことでその上に跳び乗っては戻る行動に落ち着いたようだ。
「念のために確認しておくんだけど、その鯉って喋ったり叫んだり……」
「しねえよ。そんな鯉いるか?」
「ミノさんのペットの趣味って変わってるよね〜」
奇声を上げるタイプではないらしい。
うちのは神様の庭に住む鯉なので、なんかご神力とかが関係してるのかもしれないと思ってたけど、百田くんの家にいる鯉も同じことをするなら関係ないのかもしれない。百田くんの家もお寺なので、そういった何かしらのパワーがある可能性も否めないけれども。
お仲間は見つけたけれど、解決策は見当たらないまま。
私はカフェラテを飲みながら考えて、そして思いついた。
「あのさ百田くん、その鯉、しばらくうちで預かってもいいかな?」
可能性はゼロじゃない気がする。
私がお願いすると、百田くんのかわりにノビくんが「いいよ!」とサムズアップした。




