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神様の大事な仕事23

 紺と白の糸を組み合わせて作られた紐をテーブルの上に乗せ、左右の紐をあちこちに折りながら花のような形を組んでいく。出来上がったものをお守り袋の中央に位置するように合わせて、袋に作った穴に紐を通す。長さを調節して紐を結んだら、パチ、パチ、と鋏で余った部分を切る。


「……できた」

「おおー」


 私が拍手すると、ミコト様はニコッと微笑んだ。私は見ていただけだけど、ここまで染めたり織ったり縫ったり編んだり、お守りを作っていたミコト様の作業時間は長かった。


「最後の紐を結んだら、だいぶムンムンした感じが減りましたね」

「うむ……ようやくうまく手綱を握れたようだ」


 作業時間が長かったのは、ただ作るのに手間暇込められていたからだけではない。

 ミコト様が最初に作ったお守り袋は、就活守りを入れて完成してもまだ隙間からムンムンした雰囲気を漂わせていた。それを見てミコト様は眉頭を揉み、さらにお守り袋を作り始めたのだ。そういった工程が何度かリピートされ、ようやくムンムンが治ったのである。


「ルリよ、時間がかかってすまなんだな。もうこやつも過ぎた効果を発揮することはないだろう。持ち歩いても、ほんの少し手助けしてくれる程度だ」

「持ち歩き……できますかねこれ」


 完成したお守りインお守りは、厚みのある長財布をさらに二回りほど大きくしたくらいのでかさに進化していた。お守りをマトリョーシカのように何度も包み込み、その際にお札やら小さい勾玉やらを足していった結果の巨大化である。

 その甲斐あってムンムンは薄まりかすかに爽やかな元気さを感じる程度になったけれど、嵩張り方が尋常じゃない。カバンに入れたらペットボトル1本分とか大きいペンケースくらいのスペースを占領してしまうこと間違いなしだ。

 ミコト様もそれに気付いているのか、笑顔が苦笑いに変わった。


「……まあ、無理に持ち歩かぬともよいかもしれぬ」

「面接のときとかだけ持っていきますね」

「それがよいな」


 古そうな勾玉とかミコト様が連日念をこめたお札とかで包んでなお効果を発揮しようとしてくる就活守りは、改めて見ても強力だ。とはいえ一般的な「よく効くお守り」くらいにまで落ち着いたので、これなら持ち歩いてもいい効果しかなさそうなのが嬉しい。


「ありがとうございます、ミコト様」

「うむ。ルリがよい仕事に就けるよう、私も祈っておる。……迷惑にならぬ範囲で」

「ミコト様の気持ちは迷惑じゃないですよ」


 お守りをテーブルに置いて、ミコト様の手を取ってお礼を言う。ミコト様は嬉しそうに微笑んで手を握り返してくれた。

 このところ夜遅くまで針仕事をしていることも多かったので、ミコト様が頑張ってお守りを作ってくれていたのは私もお屋敷のみんなもよくわかっている。

 この優しさに応えられるように、私もミコト様のことを大事にしたいと改めて思った。


「ところでミコト様、これめちゃくちゃ大きくなっちゃったけど、元の持ち主の人は怒らないですかね」

「うぅむ……しかし、これを一枚でも脱がせるとまたむんむんとしてくるゆえ……」

「ムンムンするよりは大きいほうがマシですかね」


 就活のお守りをうちに預けた相手が、返却されたときにびっくりしないかだけはちょっと心配になった。






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