神様の大事な仕事22
すずめくんは「おことわりします」「いりません」「いやです」の3パターンの返事を駆使することによって上手に名刺を避けてみせた。行きも帰りも、一枚も貰うことなく帰ってきたその勇姿に、ミコト様が拍手する。
私もミコト様も断り文句はそう変わらないのに、それでも名刺を断りきれなかった。キッパリハッキリと相手を退かせるあたりすずめくんはすごい。
「すごいねすずめくん。子供だからっていうのもあるかもしれないけど、それでも会社の役員とかいう人が名刺差し出してたのに」
「人間の相手はとっても簡単です。でも鳥たちはちょっと大変でした」
「どういうこと?」
ミコト様が丁寧に作ってくれた夕食を食べ終わってデザートのバターケーキを食べながら、すずめくんは私が仕事に行っている間のことを話してくれた。
私を見送った後、すずめくんはお目当てのバターケーキを買いに駅まで戻った。まだ人の多いホームで電車を待っていたら、スズメが足元に飛んできたのだという。
「やれ争い事が起きて仲裁が必要だとか、この辺りを取りまとめる者が死んでしまい困っているだとか、どこぞの主をしていらっしゃる方が迷子で助けてほしいだとか」
「え、迷子って神様が?」
「そうみたいです。長くおわして現代にお詳しくないようなお方はうちだけじゃありませんからね」
バタークリームを真剣に味わっていたミコト様が、ちょっと居心地悪そうにしている。
「それでどうしたの?」
「聞く限りお帰りの道はそれほど難しくないようでしたので、声を掛けてきたご同業を家電量販店につれていきました」
「え? なんで?」
「スマホを契約させるためです! もう! あちこち出かけるのにあれひとつで事足りることがいつになったら常識になるんでしょう!」
すずめくんは開店早々に家電量販店に飛び込んでスマホを買って神使の人にあげて、既に長い行列になってしまったケーキ屋さんの待機列に並びながらみっちりと使い方を教え、一応そのひとたちの交通費を多めに渡して送り出してからケーキを買って帰ったそうだ。一分の隙もない対応だった。
「そんなことがあったんだ。全く知らない人に使い方を教えるのは大変だよね」
「どちらかというと、その後に『うちの神使にならないか』と誘われるのを断る方が面倒でした! ひとをコロコロなびくような扱いしてまったく失礼な!」
「すずめくんが有能だったから一緒に働きたいと思ったんだよ」
すずめくんがぷんぷん怒っている様子を見て、ミコト様がちょっとホッとした顔をしていた。既に神様に仕えている神使を横取りするなんて神様同士でもちょっと軋轢がありそうだし、その誘いも冗談半分だったんだろうけど、ミコト様はすずめくんがきっぱり断ってくれたとわかって嬉しいようだ。
「すずめや、よう働いてくれたな。ほれみかんも食べるがよい」
「就活は断るのは簡単ですが、いっぱい話しかけられると予定がずれて困ります! あるじさま、お守りをちゃちゃっと完成させてくださいませね!」
「う、うむ」
ミコト様が慌てて頷く。私もすずめくんにはお世話になりっぱなしだし、断り方が上手でも送迎に時間を割いてもらうのも心苦しい。ミコト様にお守り作りを頑張ってもらいつつ、転職の準備を前倒しすることにした。
「すずめくん、もうちょっと負担かけるかもしれないけどよろしくね」
「あれくらい負担じゃありません。ルリさまはすずめが守りますから!」
頼もしい。
大きく口を開けてケーキをぱくっと食べたすずめくんに、私はもう一切れ切り分ける。ミコト様はみかんをむいてあげていた。




