神様の大事な仕事13
帰ったら絶対文句を言おうと思って勢いよく帰宅したら、ミコト様が泣きそうな顔で出迎えてくれた。
「ルリよ……! こやつは私の手には負えぬ!」
「ただいま、どうしたんですか」
「よう帰った、こやつ、いくら言い聞かせても己を曲げぬのだ……」
蝋梅さんから聞いたのか千里眼で見てたのか、朝の不自然なスカウト事件をミコト様は知ったらしい。私があからさまに不自然な棚ボタを警戒すると知っているミコト様は、私が置いていった就活のお守りを回収し、手加減をするように説得していたのだそうだ。
「しかしこやつは! こやつはなんだか元気がよい! よすぎる!」
「お守りに元気とかあるんですね」
「式としては単純なのに、込められた力が尋常ではない……」
就活に本気を入れている人が作ったお守りなんだろうか。こんなヤバそうなものを作る情熱と行動力がある人は、お守りがなくても受かっている気がするけど。
机の上でお盆に載せられたお守りに向かって一生懸命説得しているミコト様。その隣でしゃがんで眺めていたすずめくんは、ふふっと笑って立ち上がった。
「ルリさま! これは根性があります! すずめは気に入りました!」
「お守りなのに根性あるんだ」
「礼儀もよく、返事もはきはき! 姿勢正しく辺りを汚さず、鯉よりも態度がよいのでお屋敷に置いてもよいかと!」
すずめくんが太鼓判を押した瞬間、遠くでル゛リ゛イ゛ィィと叫ぶ声が聞こえた。確かにビタンビタン跳ねる鯉よりはお守りの方がお屋敷にあっても不自然ではないと同意する気持ちは、声に出さずにいることにする。
「すずめくん、これ効果ありすぎだよ。どこで貰ってきたの?」
「ツテのツテです!」
「ツテのツテなんだ」
「まさにルリさまのお困りに応えるような形でもたらされましたね! めでたしめでたし!」
「いや全然めでたくないんだけど」
私が朝のことを説明すると、すずめくんは「いい出会いだったのに!」と惜しみ、梅コンビは「よかったわねえ」と喜び、めじろくんは「今から連絡して名刺だけでも貰うべきです」と企業のホームページを見せてきた。
「味方がいない」
「ルリさまがいつまでも漆黒の企業に勤めているほうが悪いです!」
「そうです。不健全な企業に勤めているとそれだけその企業の寿命が伸びるのです」
「反論しにくい」
ふと足元を見ると、ころころと鞠が近付いてきた。
味方してくれるのかな、と思って持ち上げると、ぽんと跳ねた鞠が私のバッグの中に入り込む。別に味方しているという感じでもなさそうだった。
「あのね、私も転職する気はあるから。ただ、あんなどう考えても謎の力が働いたみたいなリクルート方法じゃなくてね。もっと普通にやりたいだけだから」
「就活に普通なんてありません!! どのような形にしろ己を磨き、企業の関心を勝ち取ったものだけが優良企業に入れるのです!! ってお守りが言ってます!」
「縁があって入るというのもひとつの就活の形、らしいですよルリさま」
「お守りってそんな喋るんだ」
声にならぬ声までがかしましいお守りだったらしい。
ちなみに、私が持ち歩いているミコト様お手製のお守りも喋っているのかすずめくんたちに聞いたところ、定期的に「ルリよ……」と呟いているらしい。納得したけどちょっと引いた。ミコト様は顔を赤くしてすずめくんたちを追いかけ回した。




