神様の大事な仕事8
「あ、これ美味しかった気がする」
「おお、ルリはこの生姜餃子を気に入っておったな! そうそう、タレにラー油を入れたいというのを止めてまず一口勧めてみたらば……」
最近何食べてたっけという話題から、ミコト様がお料理ノートを見せてくれた。A4よりも一回り大きいB4サイズのノートは、罫線に関係なく筆ペンで縦書きに書かれている。余白が多いので大きいサイズが合っているようだ。
かろうじて「ぎやうざ」と読めるそのページには、和風な感じの餃子の図解と分量、そしてひと言が添えられていた。書き足したようなところもあるので、改良していっているようだ。
「これ、全部のレシピで書いてるんですか?」
「いやいや、よさそうなものや、変わったものだけだ。厨に立って間もない頃は、細かいことも書いておったが。流石に最近はある程度のれしぴは身に付いておる。あとはその、料理を思いついたりしたときなど……」
「自分でアレンジするのってすごいですよね。しかも美味しいし」
「いやいや、いやいや」
ミコト様は袖で顔を隠して照れているけれど、料理の腕はもうプロ並みだ。油揚げとかも自分で作ってるし、生姜餃子の皮も手作りだ。ミコト様は何か書き物をするのも好きなので、料理ノートを書くのも合っているのだろう。私がここに来る前、夕食を作ってたときも最初は気に入った料理をノートにまとめようとしたけれど、面倒すぎて結局その辺のレシートの裏とかメモ帳とかにレシピを書いて適当になくすことを繰り返していたのを思い出した。
「お菓子は書いてないんですね」
「甘味はこっちの帳面にまとめておる」
「ほんとだ。どっちも10冊以上ありますね。このノートはなんですか?」
「これは殿堂入りだ!」
「殿堂入り」
「ルリが特に好きなものばかりをこちらに写しておるのだ」
マル秘と大きく書かれたそのノートは、殿堂入りレシピばかりを集めたものだったようだ。ミコト様が開いてくれたページを見ると、確かにどれも私がハマった料理ばかりだ。甘辛チキンや新玉ねぎの飛来子、ポテトチップスのレシピもある。ポテチはスイーツ枠ではないらしい。なんかわかる。
「マル秘って書いてあるけど、見せていいんですか」
「ああ、これは私以外が作らぬようにと書いてあるだけだ。他の帳面は梅やすずめらに作らせることもあるが、ここにあるれしぴは私しか作らぬようにと屋敷の者に言い含めておる」
ノートを抱えて照れているミコト様、乙女の顔である。
私の大好物は自分だけが作ると決めているらしい。健気でかわいくて、不覚にもきゅんとしてしまった。
「私も作ったらダメですか?」
「いやルリは……でもルリがひとりで作って食べるようになったら……うぅむ……その、私と一緒に作るのならば」
葛藤しながらも許可してくれた。手を握ると、にこーっと華やかな笑顔に変わる。
「じゃあ、久しぶりに一緒に料理しましょう。ミコト様の好きな料理も作らせてください」
「本当か! 私はルリの作ったものならなんでも好きだ!」
「そんなこと言うと激辛料理とか作るかもしれませんよ」
「ル、ルリが作ってくれるというなら私は……!!」
ミコト様が覚悟を決めた顔になったので、冗談ですと訂正しておいた。




