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神様の大事な仕事7

 あんこと生クリームを頬張ったところで驚いたミコト様は、飲み込むまで手と視線だけでワタワタしていた。ミコト様は慌てていてもどこかお上品だ。


「き、急にどうしたというのだルリよ」

「長い間寂しい思いをさせてしまってごめんなさい」

「おおお、落ち着くがよい、ほれルリよ、お茶でも飲んで熱っ」


 どう見てもミコト様の方が落ち着いた方がいいように見えたけれど、私はお茶を受け取って飲んだ。私がほうじ茶好きなので、このお茶もミコト様が自ら焙じてくれたものだ。私の身の回りには、ミコト様の心のこもったものが溢れている。流石にスーツを手作りさせて欲しいと言われたときは断ったけど、会社に行くときに使っているハンカチやらペンケースやらもミコト様が作ったものだ。


「ミコト様は私のことが大好きなのに」

「ングッ?! そ、あ、た、確かにそうだが」

「私が喜んでるところを見るのが趣味といっても過言ではないのに、ここ最近ギスギスした気持ちばっかりになっててすみません」

「趣味とは……そうだが……いやルリが謝ることでは」


 ミコト様は顔を赤くしながらも謝らないようにと手をぐーぱーさせる。


「その、私はやりたいことをやっておるだけで、ルリのように責任感や義務感があるようなものではなく……ただルリが少しでも幸せを感じてくれたそれでよいと思っておって」

「それでも、誰かに親切にしてるのに感謝されなかったらつらいと思います。今まで、私が気付かなかったところで色々やってくれてたことも多かったんじゃないですか?」


 ミコト様はすごく優しいのに、控えめな神様だ。長いこと生きているからか手先がすごく器用で料理や裁縫をしては私に披露してくれている。自分が作ったのだと言うことも少ないので、私が尋ねなければそのままになってしまうことも多い。

 毎日手作りしてくれている料理だけでも、この一年、私の体調を気遣ったメニューや、私が好きな食材で新しく考えた料理をいくつ出してくれたのだろう。覚えているものは数えるほどしかない。


「私も、ミコト様を幸せにしたいと思ってたのに……全然できてない」

「そのようなことはないぞ!」


 私の言葉を遮るようにいったミコト様は、微笑んで首を横に振った。


「ルリよ、そなたは覚えておらぬかもしれぬが、全く気付かなかったというわけではない」

「でも私、全然覚えてないですよ」

「そうだとしても、ルリはきちんと気付いておった。私がルリの好物を作れば、普段より早く食べ終わり、新しい手拭いを箪笥に忍ばせておればそれを選んで持っていっておったのだ」


 記憶にない行動だ。

 本当にそんなことをやっていたのだろうか。私の疑わしい気持ちを視線で感じたようで、ミコト様は笑って頷いた。


「ルリの反応を私が見逃すわけがないであろう? ルリはきちんと応えてくれておった。それで充分嬉しかったのだ」

「……やっぱり満足度のハードルが低い気がするので、これからはもっと頑張りますね」

「頑張らなくてよい」


 にこにこ笑ったミコト様には、やっぱりかなわない気がする。






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