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神様の大事な仕事6

「ではルリさま、すずめとめじろは情報収集に行ってまいりますから、あるじさまとイチャイチャしててくださいね!」

「いってらっしゃーい」


 おんぼろ神社の正月は静かだ。稀に掃除に来てくれるおばあさんも、年末年始は箱根旅行に行くそうなので参拝者もいない。家のことをすませたすずめくんとめじろくんは、ぽふっと鳥の姿に戻ってどこかに行ってしまった。

 情報収集って行ってたけど、会社の弱みを探しに行ったとかじゃないことを祈る。


「ルリよ」


 見送ってリビングに戻ると、ミコト様がひょっこり顔を出した。今年は中華風おせちで朝から食卓を賑わしていたミコト様は、またキッチンから何かを持ってきたらしい。


「おやつをどうかと思うてな」

「わーい」


 私が喜ぶと、ミコト様もにこーっと笑った。いそいそと持ってきたお皿に載っていたのは白いワッフルである。


「白いですね」

「これはな、餅なのだ。餅をわふる鍋で焼くとよいと見たので作ってみた」

「お餅がこんなワッフルみたいになるんですね」


 何年か前、ベルギーワッフルブームがお屋敷に到来したときに買ったワッフルメーカーが活躍したらしい。あのときも本格ベルギーワッフル以外にもクロワッサン生地でワッフルを焼いたりと多彩な味を作り出していたミコト様だけれど、今回は餅を焼いたらしい。

 凹凸のある白い生地は、ほのかに焼き目が付いている。直火で焼くタイプなのに火加減が絶妙だ。ミコト様、そのうち台所の神に進化しそうな気がする。添えられた生クリームはふんわりバラの形に絞られ、隣のあんこまでもがおしゃれに見えた。


「いただきます」

「うむ」


 餅のワッフルは、見た目よりもサクサクだった。むしろサックサクだった。軽い食感に香ばしいお餅の香りがほのかに漂って、生クリームとあんこのどっしり感とすごく合っていた。


「美味しい!」

「そうか」


 食べ進めると、真ん中のあたりだけほのかにお餅っぽさが残っている。柔らかくて食べ応えのある部分とサクサクの表面の食感が楽しい。お餅と生クリーム最高だ。

 隣で食べているミコト様も、にこにこしていて美味しそうだ。


「サクサクで食べやすいですね。醤油とかしょっぱい系にも合いそう」

「確かに、おかきに似た風味があるな。次に作るときは醤油を合わせてみよう」

「今食べませんか? はんぶんこして」

「おお、それはよい。はんぶんこしようぞ」


 ミコト様によると、この餅ワッフルは焼き加減によってモチモチ多めにもサクサクオンリーにもできるらしい。


「ばたぁを使うと風味がよいが、火加減を間違えると黒くなってどうにもようない。後でのせるなら、ふんわりばたぁのほうがよいだろうな」

「流行りそうですね。神社の出店にしたら初詣の人も来そうですよ」

「いやそれはまぁ……それほどのものでは……」


 集客に消極的過ぎるミコト様は私の提案に急にトーンダウンしたものの、お餅のアレンジレシピについてはとても饒舌だった。普通に食べるお餅も美味しいけれど、飽きがこないようにあれこれ考えていたようだ。


「銅夏も、食感がもちもちになってよい。すずめが気に入っておったので、明日にでも作ろう」

「ミコト様、いつから試作してたんですか?」


 ミコト様は初めての料理を作るときは、食卓に出す前に試作品を作ることが多い。うまくできた試作品はお屋敷のひとたちが食べることが多いけれど、私もたまに見つけたら味見させてもらっていた。

 最近は、ほとんどそういうこともなくなっていたけれど。

 ミコト様も同じことを思ったのか、目が合うと苦笑するように目を細めた。


「うむ、まあ、時間を見て少しずつ。正月はルリもおるだろうから、ゆっくり食べてもらおうと思うておったのだ」

「色々考えてくれてたんですね」


 気持ちの余裕がなくて、色んなことに気付けなくなっていたのだと改めて思った。大学の頃は毎日あれこれと話しかけては拗ねたりニコニコしたりするミコト様を見ていたけれど、最近は食事のときに顔を合わせるくらいしかしていなかった。私の邪魔をしないように気を遣ってくれていたのだろう。

 私はフォークを置いて、ミコト様を見つめる。


「ミコト様、ごめんなさい」

「うむ?!」






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