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神様の大事な仕事5

「ルリさま」


 最初に動いたのは、すずめくんだった。私に向き直って座り、私の膝をぽんぽん叩く。


「お仕事お辞めになるって言ったじゃないですか。すずめと一緒に干したての布団でゴロゴロしましょう」

「ご、ゴロゴロするのは私とだけぞ」

「いや辞めたいとは言ったけど辞めるとは言ってないし、お布団は魅力的だけど」


 お屋敷は基本襖が多いので、聞き耳もデバガメも簡単にできてしまうのはよくない。そして都合良い方向へ話を持っていこうとするのもよくないと思う。


「なぜです! 辞めたいなら辞める一択でしょう! 辞表を書いて1ヶ月で退職です! 労基法でそう決まっています!」

「法律に詳しいねすずめくん」

「仕事なんて辞めて遊んで暮らせばいいでしょう! 一生遊べる分の金子きんすなんて用意してみせます! ミコト様が!」

「よ、用意しようぞ」

「すずめくんその発言色んな人を敵に回すよ」


 語気を強めるすずめくんには、炊き込みご飯のおにぎりを渡した。つい食べてしまうあたりすずめくんらしい。

 しかしすずめくんを抑えたと思ったら、後ろでチョコチョコ喋っていたミコト様が今度はずいっと膝を近付けてきた。


「ルリよ、なぜ辞めぬ。私はルリが苦しむのを見とうないと言うたではないか。ルリはそれでも続けるというのか」

「続けるというか、うーん、流石に今の会社はやめると思います。体制もおかしいし、人間関係もつらいこと多いし」


 そこそこ成長している中小企業で、新しい試みも積極的に取り入れている、という触れ込みだった会社は、入ってみるとドラ息子な二代目社長が会社の仕組みを掻き乱している最中だった。入社した頃は先代から勤めているという人たちが多く仕事も人間関係も問題なかった。しかし理由もなくあれこれ導入する二代目に愛想を尽かして辞めていく人が増え、よくわからない仕事を少ない人数で回しているうちに雰囲気も悪くなり、業績も傾いてきたせいでテコ入れを試みてますます無謀な奔走を続ける社長……という悪循環で、社歴が長い人でも自分のことで精一杯状態になっているのだ。

 すぐに変わるマニュアルも嫌だし、前は和やかに仕事をしていた人たちがピリピリした雰囲気で働いているを見るだけでもつらい。


「やはりつらいのではないかルリよ! 今すぐやめよ!」

「日本の会社は今すぐ辞めますで終われないんですよミコト様」


 このまま働き続けても何年続けられるかは疑問だった。辞めたいのは本心だ。大晦日まで今必要なのか疑問に思うような仕事をやらされるのも嫌だし、何よりミコト様を悲しませたくない。


「会社辞める前に転職先を探そうと思います」

「ま、また他の会社とやらに行くというのか? しかし、しかしルリよ」

「特にスキルが身に付いたわけでもないし、短い期間しか働かずに転職するわけだから難しいだろうけど、今度はこういう状況にならないように焦らず探しますね」


 心配そうな顔をしたミコト様は、しゅんとして視線を下げた。

 私が転職先でも同じように無理をしないか心配な気持ちと、私の意志を尊重したいという気持ちで葛藤しているようだ。


「ミコト様、資格とか取ってなるべくいいところに採用されるよう頑張るし、つらいときはちゃんと言いますから。今の会社だって体壊すほど激務ってわけじゃないし、私は恵まれてる方だと思います」

「会社がそんな魔窟だとは……現世はどうなっておるのだ……」

「ホワイトなところもいっぱいありますよ、たぶん」

「たぶん……」


 私が手を握ると、ミコト様はしばらく考えたのちに頷いた。


「ルリがやるというならば、私はそれを応援しよう。この屋敷のみなも。つらくない程度にやってみるとよい」

「ありがとうございます」


 私が笑うと、ミコト様も微笑んだ。泣いていたせいでまだ目が赤いけれど、いつものミコト様だ。

 和やかな空気の中で、めじろくんがお茶を淹れ直してくれる。


「ではルリさま、とりあえず今年から勤務状態について記録を取っていただけますか? 去年の分も思い出せるだけ書いてください。あとパワハラモラハラがあればそちらも録音お願いします。最近のルリさまは睡眠時間が短くなっているので、診断書も取りに行きましょう」

「めじろくん……」

「相応の報いをせねばなりません」


 こくりと頷いためじろくんはとても有能だった。






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