神様の大事な仕事4
丁寧に出汁を引いたつゆに漂う、温かいお蕎麦。からっと揚がった海老の天ぷらと薄切りのかまぼこ、わかめ、ネギが賑やかに彩っている。
「いただきまーす」
「召し上がれ。足りないならばおかわりもある」
帰ってきたばかりの頃とは違って、リラックスしたお腹は正直に空腹を告げていた。薄味のつゆも美味しいし、海老天が何より美味しい。サクサクッと音を立てる衣とぷりぷりで大きい海老は、揚げ物なのになぜか重くない。
「これすごく美味しいですね!」
「そうか! 蕎麦は遅うに食べるゆえ、椿油を使って軽く揚げたのだ」
「椿油って髪に付けるだけじゃなかったんですね」
ミコト様がアルカイックスマイルで差し出してきたおかわりの海老天をつい受け取ってしまったけれど、大晦日だし多少は食べ過ぎても許されるはずだ。
「しみわたる……」
「ルリさまはずっと食欲がありませんでしたからね」
「ルリさまっこちらのかしわ飯もお食べください! すずめがおにぎりにしました! すずめが! ルリさまのために!」
「そばにおにぎりって……いただきます」
すずめくんの圧に負けて、炊き込みご飯のおにぎりも食べる。すずめくんの手のひらサイズに合わせて小さいそのおにぎりはとても美味しかった。お米に強いこだわりを持つすずめくんがこだわって作ってくれたのだろう。
「おいしい」
「ルリさま、お口直しに梅はいかが?」
「梅干し、梅かつお、梅水晶はいかが?」
ニコニコした梅コンビは、小鉢を持ってスススと近付いてくる。
「ルリよ、蕎麦のおかわりはどうか? たくさん作っておいたぞ、ルリの食べたいだけ茹でよう」
「ルリさま、おにぎりもっと食べてください!」
「ちょっと待ってちょっと待って」
いつになく全方向から圧が強い。
私はめじろくんに目で助けを求めたけれど、めじろくんはすっと徳利を取り出してみせた。そうじゃない。
「落ち着いて、この時間に食べ過ぎるのはよくないと思う。明日動けなくなりそう」
「大丈夫ですルリさま! 明日はお正月、のんべんだらりとお過ごしください!」
「そうだぞルリよ、明日とは言わず、明後日もその次も……好きなだけゆっくり過ごせばよい」
めじろくんに差し出されたお猪口をくいっと呷ったミコト様は、目元をほんのり染めながら笑顔で頷いた。
「いくらでも。何しろ、ルリはもうずっとお屋敷におるのだからな。仕事とやらを辞めて」
「ルリさま! めじろと一緒に遊びましょうね! 新しいゲームをたくさん買ってあります!」
「ルリさま、一緒にみかんを取りましょう」
「久しぶりにお着物で過ごすのも素敵ねえ」
「丁寧に髪を結いたいわねえ」
「いやいやちょっと待って」
ぽわんと花を背負ったミコト様を筆頭に、鳥コンビも梅コンビもあれこれと来年の予定を考えている。楽しそうなところに水を差すのは申し訳ないけれど、誤解は解かないといけない。
「あの……仕事、続けるけど」
ぐわっと全員の顔がこっちを向いて、ちょっと怖かったのは内緒だ。




