とりとりとり
ある日、ミコト様と冬の庭を眺めつつコタツに入ってみかんを食べていると、急にバッサバッサと何かが降ってきた。
火球。じゃない。
火球に見えたそれは足をニョキっと出し、がっしりと縁側に着地した。そして雪見障子の間に嘴を突っ込むとガラッと開け放ち、炎のように見える翼をバサッと広げ、高らかに鳴く。
「ヨキッッカナァーッ!!!」
「おお、朱雀よ。寒い中よう来たな」
動じるどころか裏口からお裾分けを持ってきたご近所さんとかに対する態度で応対しているミコト様、ある意味すごい。
孔雀を脚長にした上にさらに派手にしてカラーリングを赤に変えたような姿の大きな鳥は、ミコト様の友達らしい。そして朱雀らしい。たまに家に来るので、そこそこ仲が良い友達なようだ。ミコト様と知り合ったきっかけが気になる。
「ヨキカナァーッ!!」
「あっ、すまぬ。忘れておった」
外来語より異種族の言葉に理解があるミコト様は、朱雀さんの言葉にはっとして立ち上がる。
「ルリよ。朱雀に弁当を頼まれておったのを忘れておった。しばしここで相手しておいてくれるか」
「いいけど……弁当?」
「そうだ。こないだめえるを貰っておったのだが、すっかりうっかり……」
弁当を頼む鳥。メールを打つ鳥。
どれもちょっと想像の範疇を超えているけれど、ミコト様はさむさむと震えながら台所の方へと急いで行ってしまった。
「……」
とりあえず、ミコト様の膝の形に空きっぱなしになっているコタツ布団を押さえに私も膝を浮かせる。ガラガラと音が聞こえてきて振り向くと、細長い首が器用に雪見障子を閉めていた。隙間ができないよう、両側を均等に閉めている。
「……ありがとうございます」
「ヨキカナ」
まつ毛の長い派手な鳥は、軽く頷くとのしのしと長い脚で部屋の中へと入る。そして私が座っていたコタツの左側、さっきまでミコト様が座っていた場所へきて脚を折りたたんで座った。
私はとりあえず、膝……はないので、胸元? 首元? 朱雀さんの前のあたりにコタツ布団をそっと被せた。朱雀さんはヨキ、と小さくつぶやく。
構造上、9割がた外に出ているけれどあったかいんだろうか。
「あの、半纏もどうですか? ミコト様のやつですけど」
コタツに入ろうとするくらいだから、寒いのかもしれない。そう思って提案すると、朱雀さんは小さく頷いた。後ろに長く広がる綺麗な尾羽を乱さないように気をつけながら、羽が折り畳んである背中に半纏をかけてあげる。すると温かくなったのか、またヨキカナーッと元気よく叫ばれた。常に鳴いているというわけではないのに、一言一言が強烈なせいで騒がしく感じる。
「えーと、みかん、食べますか?」
「ヨキカナァッ!」
「ミコト様と約束してたんですね」
「ヨキカナァッ!」
「メールとかって結構使うんですか?」
「ィヨキカナァッ!!」
会話が成立しているのだろうか。
若干不安になりつつ、みかんを剥いて差し出す。朱雀さんは器用に薄皮の中身だけをつついて食べていた。
朱雀さんとふたりきりになったことが少ないので、ちょっと気まずい。
そう思っていると、軽い足音がパタパタと近付いてきた。
「朱雀さま! ようこそいらっしゃいました!」
「あ、すずめくんとめじろくん」
「さあさお茶をどうぞ! お菓子もどうぞ!」
「ヨキカナーッ!!」
毛糸の靴下、モコモコの半纏、スヌードを装備したすずめくんとめじろくんが、お盆をもって入ってきた。ふたりは朱雀さんの両側にぴったりとくっつき、お茶を淹れて勧めると、自分達もコタツに入る。寒いところがあまり好きじゃないふたりなのに、冬の庭に来るのは珍しい。
「あるじさまは今せっせと厚焼き卵を焼いております!」
「ヨキカナッ」
「冷めてから詰めるのでもうしばらく待っていただきたいとのことで」
「ヨキッ」
「待っている間に色々お話を聞いていただきたいのです!」
「ヨキカナ」
すずめくん、朱雀さん、めじろくんの順番でピッタリくっついた3人、いや3羽は、あっちの鳥がどーたら、あそこのヒナがこーたらとあれこれ話をしはじめた。聞いている限り、ご近所の鳥事情について話しているようだ。朱雀さんの返事も、私にとっては「ヨキカナ」としか聞こえないけれど、すずめくんとめじろくんにはきちんと聞こえているらしい。ふんふんと耳を傾けたり、ときどきメモしたり、反論したりしている。普段は口数の少ないめじろくんも、今年はサザンカがどうのなどとあれこれ話している。
なんかかわいい。
夕方の駅前で騒がしい鳥たちも、こういう会話をしてるのかもしれない。
ミコトさまが戻ってくるまで、ピーチクパーチクと元気なおしゃべりを聞きながら、私はコタツでみかんを食べたのだった。
ちなみに弁当は2つだった。……誰と食べるんだろう。




