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トンネルの向こうには2

 トンネルは、ほとんど信号もないようなかなり狭い道の先にあった。

 少し手前の空き地に車を停めて外に出ると、猿田がみんなの輪の中にスマホを見せる。


「マップによるとートンネルの向こうは右に小道があってー、神社に繋がってるっぽい」

「ほんとだ。こんなとこに神社あるか普通」

「ちっちゃいやつじゃね?」

「ねえなんか雰囲気怖くない?」


 話し合いの結果、トンネルの手前まで全員で行き、順番にトンネルをくぐって神社にお参りをしたのち、その証拠を残してくる。特に準備もなく来たので、その証拠とやらはポテチになった。行ったやつは何枚ポテチがあったか数えて、そこへ自分の分を足し、それから戻ってくるのだ。


「どこら辺に置く? 建物の手前の方とか?」

「鳥居あるんじゃね? 鳥居のすぐ下とかどうよ?」


 あれこれ言っているのを聞いていると、いきなり隣から「やめた方がいいんじゃないかなあ」と小さい呟きが聞こえてきた。

 箕坂さんだ。


「え、もしかして怖くなった?」

「いやそうじゃなくて、ポテチ」

「あー、確かに汚れそうだけど、でも最後のやつが回収してくるし……」


 箕坂さんは首を振って、それから「イタズラされそう」と呟く。

 イタズラってどういう意味。


「うぃーじゃあ男女ペア作りまーす!」

「なんで男女なのー?」

「つか男余るやん!」


 箕坂さんが歩いていったので、聞き返しそびれた。いやイタズラって何。



「小馬木くんよろー」

「あ、うん、よろしく」


 俺とペアになったのは、陽キャの中でもひときわ明るいミユちゃんだった。可愛いので嬉しいけど、ちょっと積極的すぎて戸惑う。

 ミユちゃんは暗闇を過剰に怖がりつつも、笑いながら懐中電灯で前を照らす。いきなり腕を掴まれて動揺したものの、騒いでくれるお陰で怖さは半減したのでよかった。


「うわなんか湿ってるけど!!」

「本当だ。走ったら滑りそう」

「こっわ!」


 トンネルの壁面や床が、懐中電灯の光でテラテラと光る。独特の音がこもった感覚が不気味だったけれど、トンネル自体は意外と短かった。暗くて見えなかったけれど、昼間なら反対側の光が入って不気味さはなくなっていそうだ。


「ねえここのトンネル壁に女の人が浮かび上がってるって言ってたけどあれ?!」

「いや……どうかな……」

「うわなんかこっち見てる気がする!」


 ミユちゃんが指した場所は、染み出した水で黒ずんでいる。人の形に見えなくもないけれど、ビビってるせいでそう見えるだけだろう。偶然出来上がった形を恐怖心持ったままロールシャッハテストした結果の噂な気がした。


「うわ、外出ると全然響きが違う! やっぱなんかトンネルの中変な感じしたよね?!」

「うーん……」


 ミユちゃんはビビりながらも、トンネルを振り返って懐中電灯で中を照らしまくっていた。本当に怖かったら振り返るのも躊躇しそうなので、意外と平気なのかもしれない。


「次、神社!」

「あ、あれじゃないかな。なんか見えてる」

「えっホントだ」


 ライトで照らすと、竹藪に埋もれかけた道の向こうに小さな建物が見えた。手前には朱色がハゲかけた鳥居がある。懐中電灯を向けると、真っ暗な中にその小さい社が浮かんでいるようで意外に不気味だった。夜の神社はヤバいみたいな動画を思い出して背筋がちょっと寒くなる。


「え……なんか近……てか普通じゃない?」


 ミユちゃんは逆に怖さを感じなかったらしい。明らかにトンネルのときよりテンションが下がっている。スタスタ近寄って行こうとするので、慌てて追いかけた。道路から20メートルも進まないうちに小さい鳥居をくぐり、社の前にたどり着く。

 誰かが手入れしているのか、竹藪の中にしては周辺は綺麗だった。落ち葉や雑草はなく地面が見えていたし、木材の角がしっかりしてるので社も意外に新しいようだ。そのちぐはぐさがまた奇妙に思える。

 こんなとこにわざわざ、肝試し以外の理由でお参りに来るっておかしくないか。そもそも、こんなトンネルのすぐそばに神社って、明らかに訳ありそうだ。例えば、トンネル工事をしているときに……


「小馬木くーん」

「うわっ!!」

「あなんかゴメン。ポテチちょうだい?」

「いやこっちこそごめん」


 過剰にビビったところを見られて内心恥ずかしさを耐えつつ、ポテチの袋を開ける。途中のスーパーで買った小分け用のポテチも、まさか肝試しに使われるとは思ってなかっただろう。カラフルな爪がその中から1枚を取り出した。小さい賽銭箱の上にポテチが載る。油が染みそうだ。


「ね、小馬木くん、ちょっと隠れて後ろの人脅かさない?」

「流石にそれはやばくない?」

「平気平気。もう次の人出発してるだろうしさ! 猿田ビビらそ!」


 ミユちゃんはポーチから小さいスプレーを取り出すと、虫除けだと自分と俺に吹きつけた。そして俺の腕を引っ張って竹藪の中に入る。懐中電灯を消すと、道は真っ暗になった。


「やば、暗すぎ。スマホつけとく?」

「いや、こんだけ暗いと明かりつけたら一発でバレると思う」

「近付いてきたら腕叩くね。そしたら2人で飛び出そ」


 ミユちゃんと暗闇で密着してるという美味しい状況だけど、それが竹藪で不気味な社の近くだと思うとイマイチ楽しめない。

 しばらく喋っていたミユちゃんも、そろそろ次のペアが来そうだからと黙ってしまった。静かになると途端に孤独感が増す。風が竹藪を通り抜けるザワザワとした音が不気味だ。しゃがんで黙っていると、さっきまでの道のりが思い浮かぶ。酔っ払ってた奴ら、ちゃんと来れるんだろうか。トンネルで転けて怪我人出そう。


 有名な心霊スポットの割には、トンネルはそんなに怖くなかったな。

 そこまで考えて、ふと気が付いた。


 ペアは5分間隔で出発していた。俺らは5番目。

 ひとつ前の4番目ペアが出発してすぐ、3番目のペアが戻ってきたけど。

 俺らがトンネルを歩いてる間、4番目のペアは戻ってこなかった。


「……」


 それに、ミユちゃんがポテチ置いたとき、他のポテチは置いてあったか?

 いや別の場所に置いてあった可能性もある。鳥居の根元は確認してなかった……でも、順番的に、4枚はあるはずのポテチを見落とすか? 落ち葉もないのに?


 嫌な汗が出てきたそのとき、ガサガサと歩く音が聞こえてきた。ミユちゃんが俺の腕を揺らす。

 深く考えるのはやめておこう。無駄にビビッても意味ない。次のやつが来たら脅かして、猿田の反応を楽しんでから一緒に帰ればいいだけだ。


 ミユちゃんの気配を感じながら、足音を待つ。

 段々と近付いてくる音を聞いていて、また違和感を感じた。

 明かりがない。

 ペアで行動しているので、光源は2つあるはずだ。けれど近付いてくるのは足音だけ。


 しかもその足音がなんか変だった。ビビって変な足取りになっているにしては、踏み込むリズムがおかしい。止まったり速くなったり、かなり不規則に動いているようだ。その足音に合わせて、ガサガサと笹が擦れ合う音が聞こえる。


 狭い道だけど、普通に歩いていれば笹が当たることはほとんどなかった。この音はまるでわざと当たりに行っている……というか、茂みをかき分けてる?

 その音が近付いてくるとともに、獣みたいな息遣いが聞こえてきた。その音を聞いてふと思いつく。


 あちこちの茂みに入るのは、「何か」を探してるからじゃないか?

 探してるのは、俺たちか?


 そう思った瞬間、全身が総毛立った。






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