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トンネルの向こうには1

 箕坂さんは、学科の同期でも少し浮いた雰囲気を放っている人だった。


「あの、箕坂さん」

「なに?」


 態度が刺々しいわけでもなく、内向的で返事が小さいわけでもない。なのに、話しかけるのには少し躊躇してしまう。


「今度の打ち上げ来るよね? あとで肝試ししようってみんなで話してるんだけど……」


 免許を取った奴は練習がてら夜中のドライブに行きたがるようになる法則ってある気がする。それが何人か集まれば、普段は近寄らないところも目的地候補に上がってしまうわけで。


「ごめん、嫌だったらいいけど、箕坂さんもどうかなーって……」


 俺の友達の鷲山は、箕坂さんが気になっているらしい。彼氏がいるっぽい時点で諦めたほうがいい気がするけど、まだ諦めきれてないようだ。女子の半数は断りそうなアホな集まりに、どうみてもアホじゃない箕坂さんを絶対誘ってきてくれと頼まれた身にもなってほしい。


「肝試しって、どこに行くの?」

「なんか隣の県のトンネルとか……あ、っていってもそんなに遠くないらしくてさ。車で20分くらいとか」

「もしかして山間のとこの?」

「どうだろう、俺ちょっとわかんないけど。なんか神社あるらしい」

「やっぱり。じゃあ私も行く」

「えっ?!」


 誘っといて驚いた俺を、箕坂さんは不思議そうに見た。慌てて謝る。

 8割方断られると思ってたからどうやって頼もうか悩んでただけに、箕坂さんが予想外に乗り気なことで驚いてしまった。


「箕坂さんって、もしかして心霊とか好き?」

「別に好きじゃないけど。あのさ、車で行くなら猿田くんも行くんだよね?」

「猿田? 行くけど」

「うん、じゃあ私も行くね」


 猿田は数少ない免許持ち、しかも親のお下がりのワゴンを持ってる貴重な運転手だ。学科でもリーダー格な感じだし、そもそも肝試しを言い出したのが猿田なこともあって奴は絶対に行くけど。

 もしかして箕坂さん、猿田狙いなのか。正直顔も猿なのに。ぶっちゃけると女関係も猿なのに。

 とりあえず箕坂さんが出席するということを鷲山に報告すると、奴は呑気に喜んでいた。箕坂さんに彼氏がいない確率が高まったことをいいニュースとするか、ライバルが猿田っぽいことを悪いニュースとするか、俺は悩んで結局黙っておくことにした。




 打ち上げ当日。

 ノンアルコールで我慢している運転手らの手前、打ち上げはほどほどにして、俺たちは肝試しに行くことにした。本当は丑三つ時がいいんだろうけど、女子のことも考えて早めに出発する。8時も過ぎればもう十分に暗く、5台に分かれて乗り込んだ車内は盛り上がっていた。


「えっ、箕坂さんじゃあ結構大学から近いんだ」

「うん」

「都会出身いいなー。俺なんか地方だからさー。まあ一人暮らし結構楽しいけど。箕坂さんって一人暮らししたことある?」

「ない。ちょっとやってみたいけど、掃除とかサボりそう」

「えーっ、意外だわー、箕坂さん家事とか料理とか得意そうなのに」


 前の列に座った鷲山、隣に座っている箕坂さんに積極的に話しかけている。箕坂さんはやっぱりいつも通りちょっと上の空な感じだった。同じ高校の奴が「ちょっと不思議ちゃんだった」って言ってたのを思い出す。

 確かにちょっと独特だよな、と思って後ろから眺めていると、箕坂さんの座っているすぐ近くにある窓ガラスが変に光った気がした。

 何だ今の。

 緑の光が、不規則に線を描いたような気がして後ろを振り向く。それっぽい看板や照明はなかったけど、何だったんだろう。顔を戻すと、箕坂さんがこっちを見ていてちょっとギクッとする。


「どうかしたの?」

「あ、いや、今どのへん走ってんのかなーって」

「そういや結構走ったよな。猿田ー、あとどんくらいだ?」

「そろそろ着くっぽいぞー!」


 箕坂さんが顔を前に戻して、俺は息を吐いた。

 肝試しっていうシチュエーションに緊張してるのだろうか。こんな大人数でドライブして、何か起こるとも考えにくいけど。半分以上酔っ払いだし。

 俺も酔ってんのかな。


 車が減速し始める。俺はチューハイの缶を握ってビニール袋に入れ、ペットボトルのコーラに切り替えることにした。






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