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それからのこと2

 割と手持ち無沙汰である。

 プキプキと鳴きながら鼻を寄せてくる8匹のうり坊を従えながら、私は秋の庭から夏の庭へと歩いた。ミコト様がいろいろと考えて選んでくれた着物は可愛いけれど、やっぱり動きにくい。


 結婚をしてから数日、お披露目には多くの神様やアヤカシが訪れていた。お屋敷の門が開かれて、中庭もお屋敷を囲む四方の庭も椅子やテーブルを配置して歓談できるようになっている。最近の神様は現代の生活に慣れている人も多いので気軽に寛げるようにとめじろくん達が頑張って準備をしていたのだ。いまだにあちこち花が咲きまくっているので、花瓶に沢山お花を生けたり、お土産にしてもらえるようにお菓子の付いた可愛いブーケを作ったりする作業は私も手伝った。


 お客さんが開いた門からではなく空から直接降りてきたり見た目がかなり特殊な点を除けば、非常にフレンドリーで常識人な人が多かった。私に挨拶をしてミコト様にお祝いを言い、贈り物をくれる人も多い。神様は私には恐れ多いタイプが多いし、かといってアヤカシは色んな形過ぎて戸惑う。あまりお屋敷から出ないミコト様に積もる話があるという人も多くて、私は贈り物を運ぶという名目でちょっと席を外させてもらっていた。

 すずめくんの用意してくれた冷たい緑茶で休憩したものの、お屋敷はお客さんで溢れている。居候しているヘビの男の子のお父さんに挨拶をされたり、山犬の若頭がお嫁さんを見せに来たり、あと知らない神様から挨拶されることも多かった。ちゃんと門を通ってやってきた貴重なお客さんの中には隣町の神様とノビくんもいたけれど、近場だということもあって一通り挨拶すると長居せずに帰ってしまったのだ。ちなみにチャリで来ていたらしい。


「おお、お美しゅう戻って」

「めでたや」

「さぁ一献」


 お屋敷の中にある広間では、ミコト様に美女が群がっていた。ミコト様の傷のない顔をことさらに褒め称えている。

 たくさんの神様に挨拶をして思ったけれど、ミコト様は神様の中でもイケメンの部類に入るようだ。整って美しい顔をしている神様はたくさんいるけれど、その中にいても目を引く。嬉しそうな表情がそうさせるのもあるだろうけれど、もともとの作りが一際イケメンだからということも大きいのではないだろうか。


「あのお方々、主様のお傷が癒えぬときは便りすらなかったのですよ。それなのに、治ってからは宴席でしつこく付き纏っていたとめじろが言ってました」

「そうなんだ」

「ルリさま、お気になさらないでくださいね。来客を無碍に出来ないからああしているだけですから」


 眺めていた私を見つけたすずめくんが、ぷりぷり怒りながら教えてくれる。イケメンに女性が群がるのは人間も神様も変わらないようだ。甲高い笑い声や漏れ聞こえてくる会話からして、あの美女を押しのけてミコト様の隣に行くのは得策ではないのは明確である。私はミコト様のもとに戻らずに、そのまま散策を続けることにした。うり坊の1匹が茂みに挟まって鳴いていたので、持ち上げて救出してから散歩を続ける。プキプキという声はまだ付いて来ていた。


「あ」


 紅白の梅が植わったお屋敷の正面に出ると、門の上空にある雲が虹色に光っていた。ゆっくりとそれは大きくなって、それから光が降りてくる。神様はこうして形も定かではないタイプの人も少なくなかった。

 私はまだ人間のままなので、格を重んじる神様によっては話しかけられたくないという人もいる。なので頭を下げて道を譲っていると、プキプキと私の周りにうり坊が固まった。少し体を起こすと私の前に光り輝いている人が立っている。


「ようこそお越しくださいました……」


 顔を上げると、後光が柔らかく私を目眩ましする。風もないのに衣がゆったりと揺れているその人は、穏やかな目を細めた。生き物としての温かみというよりかは、太陽のような壮大な感じがする。たぶん物凄く格が高い神様だろう。

 ゆったりと光が虹色にきらめいて、その瞬間にその人は軽く頷いた。


 きことをなしましたね


 音声としてではなく、光が差し込むようにそんなような気持ちが伝わってくる。ふんわりと光の風に包まれたかと思うと、次の瞬間にはもうその人はいなくなっていた。ふと気付くと、手に何か握っている。

 薄青色をした桃のような形の陶器で、尖っている上の方が蓋になっている。開けるとクリームのようなものが入っていた。ほのかに漂う香りは、どこか覚えがある。


「薬師如来さま、ありがとうございます」


 相手がいないので、とりあえず虹色の雲に向かってお礼を言っておいた。ミコト様の傷を癒やすためにすずめくんが薬をお願いしていた相手なので、きっと傷が癒えたことを喜んでお祝いを下さったのだろう。貰った器はとても可愛いので、薬がなくなっても入れ替えて使えそうだ。

 ミコト様に報告しようと思うけれど、まだかしましい声が聞こえてきているので踏みとどまる。


 プキプキと周って喜んでいたうり坊達は、しばらくすると親御さんが迎えに来た。物凄く大きくて牙も立派なイノシシは、私を見てフゴフゴと鳴いてから門の方へと歩いていく。うり坊達が盛大に鳴いたので、途中で伏せて背中に全員を乗せてから帰っていた。

 姿が見えなくなった門の方へ、なんとなく歩き始める。イノシシは曲がり角を曲がって行ったのでもしかしたら近所に住んでいるのかもしれない。外を覗いたらまだ見えるかなと思って門の柱に手を伸ばすと、外開きに開いていた扉が音もないのに素早く閉じた。


「……どこへ行く?」


 風圧に目を閉じると、すぐ近くから声が聞こえてくる。振り向くと、ミコト様が私のことをじっと見下ろしていた。絹の袖が私を囲っている。静かに眺める顔には、いつもの笑顔は浮かんでいなかった。






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