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それからのこと1

 鳥の鳴き声と、隙間から入る光と、抑えられた話し声で目が覚めた。ミコト様が何か小声で喋っていて、聞き取れないうちにそれが途切れて足音が近付いてくる。


「ルリ、起きたか? まだ眠っていてもよいぞ。体は辛くないか?」


 囁くように問い掛けたミコト様は、私を気遣いながらも布団に潜り込み、ぴったりと私を抱え込んだ。目をこすっていると、そっとその手を掴まれる。


「あまりこすっては赤くなるぞ。……どうかしたか?」

「ミコト様」

「うむ」


 まだ寝ぼけ眼な私に嬉しそうに微笑み、顔のあちこちにミコト様がキスを降らせる。それからぎゅっと抱きしめて、幸せそうな溜息を吐いた。


「ルリとこうして朝寝が出来る日が来ようとは……天地のどこを探しても、私のような果報者はおらぬだろうな」

「……」

「ルリよ、まだ眠いのか? ゆるりと寝るがよい。ずっとこうしていたいほどだ」


 あまーい。

 ふふ、と笑って私にすり寄ってくるミコト様の顔が甘い。砂糖のはちみつ漬け生クリーム盛りくらい甘い。

 そしてミコト様が何か美しくなっている気がする。いや、輝きを増しているという意味だけではなくて。


 初めての後にキレイになる的な展開って女子がなる現象じゃないのか。というか、あれは少女漫画の演出じゃなかったのだろうか。そもそもがちょっと見ないほどのイケメンであるのに、今日は更に輝き、色気とかも増し、なんかダイソンくらいに吸引力も増しているように感じる。

 じーっと見ていると、ミコト様が頬を染めて目を伏せた。まつ毛の影さえ色っぽい。


「そ、そのように眺めて……ルリは私を夢中にさせるのが上手い」


 恥ずかしそうにしているけれど、それでも嬉しそうに表情は緩んでいた。背中に回った手が、背骨に沿って指を動かしている。昨日の夜の始まりの恥じらいっぷりがどこに消えたのかというくらい艶っぽい視線で私に微笑んだ。


「私のいとおしき妻……」

「ミコト様」

「もっと私の名を呼んでおくれ、ルリよ」

「ミコト様、お腹空きました」


 ゆっくりと力をかけないように私の上に覆い被さったミコト様は、ぱちくりと瞬きをした。それから困ったように眉尻を下げる。


「しばらくは我慢してくれぬか? あとでふわふわのぱんけえきを作るゆえ」

「でもお腹鳴りそうですよ。いい匂いもしてきてますし」

「……わかった。用意するよう言い付けておいたから、今に朝餉が運ばれてくるであろう」


 惜しそうな顔をしたミコト様が、私の両脇に手を入れて起こしてくれる。それからまた笑顔に戻って、ふふと笑いながら唇を重ねた。


「おはよう、ルリよ」

「おはようございます、ミコト様。何かキレイになってませんか?」

「もちろんだ。ルリはいつでも花開くように美しく」

「いや私じゃなくて、ミコト様が」


 きょとんと首を傾げた仕草もいちいち何だか目を引く。こんなにイケメンを振りまいていて大丈夫なのかこの人。そのへんを歩けば皆が惚れてしまうのでは。人類の平和のために、引きこもり生活を継続したほうがいいのかもしれない。

 というのをマイルドに言うと、ミコト様が嬉しそうに目を細めて微笑んだ。


「このようにいとおしき者をこの腕に抱いて、幸せに浸らぬ者はおらぬからな」

「そういう問題ですか? 私も幸せですけどそんな変わった感ないですよ。鏡……ほら」


 広い御帳台の中に置かれている小さい引き出しの上の鏡を持ち上げて見ると、普通の眠そうな顔をした私が写っている。覗き込んできたミコト様は鏡越しでもキラキラうるつや美人になっていて、じっと私の方を見ながらうっとりと微笑む顔も甘ったるい。


「ルリも美しゅうなっておる。日に日にこうして花開くそなたを私がどれほど焦がれておるか」

「気のせいもはなはだしいような……」

「いつまでもこうして捕まえて誰にも見せとうない。私のためだけに咲いておくれ」


 抱きしめられて囁かれると、耳元がくすぐったい。あまりの甘さに私の方が恥ずかしくなり、その恥ずかしさにもぞもぞ逃げようとすると、ミコト様がますますしっかりと抱きしめてくる。そのうち膝の上に乗せられて、何だか遊びみたいになってるうちにミコト様が後ろ向きに倒れた。薄いパジャマの上から、笑って上下する胸の響きが伝わってくる。


「ミコト様、起きるって言ってるじゃないですか。お腹空きました」

「まだ時間はある」

「もうとっくに朝になっちゃってますよ」

「なに、構うものか」


 ミコト様の上から退こうとすると、腰のあたりに手を回されて動けなくなった。そのままぐっと引き寄せられてミコト様の顔が近くなる。髪も服も乱れているのに、それすら魅力になるほどの微笑みでミコト様が囁いた。


「夫婦になったばかりの男女が褥から出ぬとしても、誰も咎めることはない」

「……あ、あまーい!」

「これ、そのように暴れて」

「あまーい! お、お腹空いたー! あまーい!」

「ルリよ、甘さで腹は膨れぬか、試してみぬか」


 いつまで経ってもごはんがやってこない。そのうちイチャイチャしだして、あとはまあ新婚として色々と。このミコト様の甘々押せ押せモードは、それから二日後にお団子を食べるまで続いて、私のときめきを大いに刺激し続けた。

 キラキラしているミコト様もかっこよくて好きだけど、やっぱりしじみってるくらい乙女なミコト様のほうが私の心臓にも優しい気がした。






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