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こいのたより6

「というわけで遊びに来ました」

「そ、そんな……あっ」


 仕事が一段落ついたらしいお昼前に、私はめじろくんに案内されてミコト様の部屋へとお邪魔した。お茶を飲んでのんびりしていたミコト様は私が来ることを知らなかったらしく、ブホッとむせつつ華麗に袖で顔を隠すという早業を披露し、もじもじしているせいで湯呑みやら硯やらを倒しまくる。スーパー有能美少年めじろくんが素早く掃除して机ごとミコト様から遠ざけ、代わりに脇息とかいう腕置きを差し出したものの、広い部屋の端に寄せられている屏風を持ってくる様子はない。


「きゅ、急に……嬉しくはあるが、その、私にも心の準備というものが」


 恥じらいつつ屏風を持ってきて欲しそうにチラチラしているミコト様は見た目は立派な男性のはずなのにどこか乙女チックである。つまり通常営業である。


「お邪魔でしたか?」

「邪魔ではない! 邪魔ではないのだが、そんな、来るとは思っておらぬから、ほら服も香もその辺のものであるし」


 普段会ってるときのと違いが全然わかんないんで大丈夫です。

 というと落ち込みそうなので、黙っておく。その前に、私もデニムとか穿いていて神様の前に来るというのは流石にどうだろうと思えてきた。


「私もすごい適当な服でごめんなさい」

「そんな意味では! その、ルリはその、似合っている、と、私は思う……」

「ありがとうございます。ミコト様の服も良いと思います」

「う、う、うむ、うむ……ちょっと待って欲しい」


 左の袖で顔を隠したまま、ミコト様は右手で懐から小さい箱みたいなのを取り出した。そこにはちっちゃい筆と墨汁の入ったミニ壺みたいなのがあって、同じく取り出した懐紙に何かサラサラと書き付けている。3枚ほど書いたところで、ミコト様はふうと溜息をついて筆を置いた。


「すまぬ。何やらもうどうしていいかと気持ちが動転して」

「いえ、私こそなんかすいません」

「それでその、そう、私とその、その……」

「仲良くなりたいと思いまして」

「そそそうかそうだなそれもよいことだとおお思う! そのあれであろう、こむ、こむみ……こみけ……」

「コミュニケーション」

「それだ、こむみけーしょん」


 うむうむと頷いているミコト様はカタカナを微妙に間違っているのがちょっと可愛い。すずめくんやめじろくんは現代語も特に違和感なく使いこなしているけれど、紅梅さんとか白梅さんとかはたまにナニソレみたいな言葉を使うこともある。この間も餅のことをオカチ? オカチン? とか呼んでいてしばらく話が通じなかった。


「それで、コミュニケーションって具体的に何をすればいいんでしょうかね」

「えっ?! そ、……そ! いや、その、」

「一緒にご飯はもう食べてるし、ゲームとか? ミコト様ってゲームとかしますか?」

「げえむ」

「えーっと、遊び?」

「遊びか……うぅむ……ルリはおなごであるから、貝合わせや州浜などだろうか?」

「すあま?」

「いや、州浜だ。これほどの台に小さい橋や花鳥をあしらって風景を作る」

「あぁ、ジオラマみたいなやつですね」

「じお……?」


 曲線の凹凸が雲みたいな形を作っている木製の台に、ミニチュアの船とかカメとかを配置していく遊びらしい。めじろくんが用意してくれたので、私達はとりあえずそれで遊ぶことになった。


「わー、ちっちゃいのに細かい! 可愛い〜」

「ルリはこういうのが好きか? ひいな遊びの調度も持ってこさせよう」


 ひいな遊びというのは、ひな祭りで飾るようなものを使ってごっこ遊びをするためのものらしい。うちのお雛様は一段で一対の雛人形と台座しかないものだったので、段飾りがある友達が羨ましかったのを思い出した。


「可愛い! これちゃんと動くんですね」

「うむ、牛車はそれ、後ろの御簾も開けるとよいぞ」

「わ〜細かい〜」


 内側までちゃんと作られている牛車、いつも使っているのをそのまま小さくしたような衣を使った几帳もある。


「これも可愛いから乗せましょう」

「うむむ……ではここに梅を植えるのはどうか?」

「良いですね。これ紅梅さんの梅? じゃあ白梅さんのはこっち。この山の上で咲いてるんです」

「なるほど、牛車は花見へゆくのだな」


 おままごとっぽいけど、小物がとても精密に作られているので結構楽しい。台はそれほど大きくないので私とミコト様は近付いて座ることになり、ミコト様の不思議でいい香りがしていた。ミコト様はたまに何かメモしていたけど、段々と熱中してくるうちに筆も置きっぱなしになる。


「この庭の縮尺だとカメめっちゃでかいですね」

「そう言われればそうだな……鶴も少し大きいか」

「私は鶴見たことないんでわかんないです」

「たまに冬の庭に来て草などを啄んでいるが、中々大きい。このくらいはあるだろう」

「でかっ」


 ジオラマに向かいながら喋る感じになるのでミコト様も段々緊張が解けたようで、私達はあれこれ庭を作りながら色々と喋った。洋食に白米でオッケーなラインとか、前のお風呂はどんなんだったのかとか、他愛もない話ばっかりだけれど、前よりもお互いに喋りやすい雰囲気になってきているようなきがする。


「そろそろお昼ごはんですね」

「うむ、めじろがいないので、準備に行っているのだろう」

「お片付けしますか?」

「いや、このままで……」

「ェエ゛ェザァ!!」


 そろそろ移動するか、みたいな雰囲気で立ち上がった瞬間、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 中庭とは反対の廊下から。






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