表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
218/302

味噌汁・般若・マリッジブルー7

「ここはすずめが持ちますのでお好きなけえきを頼んでください! すずめはお屋敷の大蔵省ですから!」

「やった〜私フルーツチーズケーキにしよ〜」

「え、マジで? ルリちいいの?」

「うん、すずめくんが家計簿つけてるしいいんじゃないかな」


 実はこの中で一番お金持ちであるすずめくんがどんと胸を叩いてみせたので、ゆいちとみかぽんは楽しそうにメニューを眺め始める。


「ルリさまも食べましょう。主様には内緒にしておきますから。小さいのならきっとばれません」

「うそ、じゃあ食べよっかな。のんさんも食べない?」


 もう一つのメニューを開いて差し出すと、のんさんはしばらく躊躇してから頷いてくれた。みかぽんはシフォンケーキ、のんさんはオペラ、私は自家製アイスで、すずめくんはショートケーキとオレンジジュースを頼む。すべてがテーブルに並ぶととても華やかで、すずめくんはすかさず写メを撮っていた。反応速度が現役女子高生よりも上だ。


「てか神様と結婚ってすごくね? 昔話っぽいわ」

「あの超絶イケメンでしょ〜? ハネムーンどこ行くの? あそこの新築マンションとか住む〜?」

「いやー、ハネムーンとかないんじゃないかな? 一応この辺の神様だから海外とか気軽に行けなさそうだし、住むとこも、たぶん今のとこのまま」

「新婚旅行くらいねだったほうがいいってマジで。すぐ結婚するなら専業主婦なんの?」

「私よりミコト様のほうが女子力高いから主婦にはなれないかな……進学か就職して何年かしたら、お屋敷でずっと暮らすことになるかな」

「ずっと家でゴロゴロ出来るとか最高じゃん」

「うらやま〜」

「……ちょっと待って」


 やっぱ男は年収かとみかぽんが頷いているところで、ずっと静かにケーキを食べていたのんさんが声を上げた。戸惑った顔で私に問い掛ける。


「ルリ、今、神社の中の空間に住んでるんでしょ? ずっとそこで暮らすの? それってもう会えなくなるってこと? ずっと?」

「えーっと……いずれは、多分」

「なんで? ずっと今みたいに暮らせないの?」

「あれーのんちってば信じてないんじゃないの〜?」

「信じてないけど、みかもゆいもルリと会えなくなるってイヤじゃないの? 私おとなになってもみんなとずっと連絡とりたいと思ってたんだけど、出来なくなるなんてやだよ」


 いつも落ち着いてるタイプののんさんが、こうして悲しそうな顔をしているのを見るのは初めてかもしれない。私の手をギュッと握ってくれていて、嬉しさでちょっと目頭が熱くなった。私の話を信じてなくても、私のことは友達だと思ってくれてることが嬉しい。


「確かにそうだわ。ルリと会えないとか。何とかなんないの?」

「彼氏にお願いしなよ〜」

「私がおばあちゃんになって死ぬまで待ってくれてもいいって言ってた。でも、私もミコト様と一緒にいたいと思ってるから、そこまでしないと思う」


 ずっと暮らしてきたこの街のことは大事だし、みんなのこともすごく好きだ。でも、ミコト様のことも好きだと思ってる。ミコト様がお屋敷で暮らしてほしいと思っているから、悲しませ続けることはしたくないし、私もミコト様とずっと一緒にいたいという気持ちはある。


「たぶん、お屋敷でずっと暮らすことになっても、時々会うくらいは出来ると思う。でも、そのうち、私は人間じゃなくなっちゃうから。年を取らなくなって見た目も変わらなくなるから」


 数年は、集まっても何も変わらないようにおしゃべりできるかもしれない。でも、十年二十年経って、みんながもっと大人になって、年を取っても私は変わらない。そうやって置いていかれて、いつかみんないなくなってしまうことを考えると胸が辛くなる。


「仮にそうなっても、別にいいから!」

「え、」

「会えないより全然マシだよ、もしそうなって辛くなったら、そん時にまた話せばいいからさ、だからいきなり会えないとかやめようよ」


 のんさんが私の手を握りながら言う。顔を上げるとのんさんも目もうるうるしていて、それに気付いて私も泣きそうになった。


「そうだわ、会えるなら会えばいいし。てか見た目若いままとか最高じゃん。私も神様探そうかな」

「年取っても若い子と仲良いとかなんかイイよね〜。ピチピチの姿で私らのお葬式出てね〜」

「そ、葬式の話はやめとこうよ……でも、ありがとう」


 人の枠から外れたら、もう人からは受け入れられないのではないかと漠然と思っていた。でも、そうじゃなくて、人かそうでないかじゃなくて私として見てくれている人もいるのだ。

 もしこの先、実際に年を取っていった先にこの関係が崩れてしまったとしても、私はこの気持ちを忘れないだろう。ずっと長い時間をミコト様と暮らすようになっていって、私を知っている人が一人もいなくなった後も、こうして受け入れてくれた人がいたんだということは、ずっと私を支えてくれるだろう。


「3人とも本当にありがとう……」

「ちょっと泣くとかやめなー! つられやすいから!」

「みかぽんも泣いてる〜なんか卒業式みたいだねえ」

「なんという美談でしょう。すずめも涙がこぼれそうです」


 ぐしぐし言っている私達と一緒に、すずめくんもしみじみと頷いている。湿っぽい雰囲気だけどなんだか嬉しい気持ちも混じっていて、少し照れくさいような気持ちになる。


 それから目と鼻を赤くしながらスイーツを平らげてお屋敷に帰ると、ミコト様が門の前でウロウロしながら帰りを待っていて、私とすずめくんは美味しいランチを食べながらお説教を受けることになった。

 おやつ食べたことは普通にバレた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
良い友達すぎる〜〜〜!!非科学的なこと信じてないお友達も、真に理解して受け入れる事は難しくても、友達として長く一緒にいたいって思ってくれるの良すぎる…ミコト様がそういう在り方を認めてくれるような神様で…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ