味噌汁・般若・マリッジブルー6
私の彼氏、実はマジモンの神様なんだよね。
突然友達から真面目な顔してそう告げられたときの反応はさまざまである。
「は?」
意味がわからないという顔をしているのがみかぽん。
「えーおもしろ〜い」
笑ってウケてるのがゆいち。
「……何言ってんの?」
呆れた冷たい目をしているのがのんさんである。
「いや……意味わかんないのはわかるしほんと信じられないっていうのも重々承知なんですけど、私の彼氏、神様なの。あの大きいスーパーの近くにある神社の神様なの」
「えっ、や何いってんのマジで? てかあんなとこに神社あったっけ?」
「神様とか玉の輿だね〜」
「神社っていうか、廃墟みたいな鳥居あるのは知ってたけど……ルリ、ほんとやばいよ、病院行ったほうがよくない?」
「わかる。その反応わかる。でも本当なの」
同じ何いってんだこいつ的な反応でも、みかぽんは何ふざけてんの? という感じだけれどのんさんにいたっては頭の病気を疑っていらっしゃる。そうですよね。私も友達が悪魔とか言われたら流石にドン引きする。ドン引きした。
お母さんが亡くなった後に家に帰りづらくなってからよくお社に隠れてたこと、ある日追いかけられて逃げ込んだらお社の中に引っ張り込まれてそこでミコト様と出会ったこと、色々助けてもらってなんやかんやあって付き合うことになって、そのうち結婚もする予定になっている。ということをとりあえず話してみるも、どうにも私が遅い中二病を迎えたような空気が否めない。
わかっていたけれど、信じてもらえなくても話したいと思ってはいたけれど、こうも露骨に疑われるとちょっと悲しい。
どう説明すれば伝わるのだろうか、もういっそミコト様呼んでみるかと考えていると、鞄の中で大人しくしていたすずめくんがちゅんと鳴いてテーブルに飛び乗った。てんてんと両足飛びでテーブルを歩き回り、ソファ席の壁側にいる私の前から向かいのみかぽん、その隣のゆいち、そしてゆいちの向かいで私の隣にいるのんさんの前までぐるりと一周する。
「ちょ、すずめくん今お店だから……」
小声で言うと、すずめくんがテーブルから降りて、ソファで一度バウンドしてから更に床に降りる。それからすぐむぎゅっと圧迫されたと思ったら男の子の姿になったすずめくんがソファによじ登るように座った。
「ルリさまのご学友のみなさま、こんにちは! すずめです!」
「は?! 何、手品?!」
「え〜なにすずめって名前可愛いんだけど〜」
「ルリ、どういうこと? いつ入ったの?」
いきなり現れたすずめくんにみかぽんは驚き、ゆいちは相変わらずマイペースに喜んでいた。のんさんは理屈重視なところがあるからか、困惑している。通路側である自分に気付かれずに子供が壁側の私の近くに現れたのが納得行かないのだろう。私達の背後の仕切りは重くて固い木製の衝立なので、音を立てずに背後から回り込むことも難しい。
「私は主様からルリさまが外出なさる際のお目付け役を承っているのです」
「お目付け役だったの……」
「主様はそれはそれはルリさまにメロメロであそばして、毎日せっせとお弁当やデザートで餌付けを怠らないお方なのです」
「あ〜だからお弁当いつも豪華だったんだね〜」
「えー……いや、確かに前より弁当ランクアップしてたけどさ……この子も文化祭とかでちらっと見たけどさー……ルリち、マジなの?」
「マジです」
マジなのか……とみかぽんはすずめくんを見ながら呟いた。のんさんは、未だに信じられないような目で私を見ている。その目に少し恐怖が混ざっているような気がして、私はミルクティーを飲む名目で顔を俯けた。
「ほんとに神様だったんだ〜。ルリの家の人、なんかヒトじゃないって思ってたけど〜、ルリもちゃんと知ってるんだったらよかった〜」
「え?! ゆいちどゆこと?! てか何その知ってた的な発言!」
「だって〜このヒトたち何か普通と違うよね?」
「違わねーよ。え? ゆいち霊感とかあったの? 全然聞いてないけど」
「ほんとに私も初耳だけど、ゆいちわかってたの……?」
「なんとなくね〜。オーラってゆーの? 見えるんだよね〜」
中学1年のとき言ったらシカトされたから黙ってたんだけどルリちが言うならいいかと思って〜。
そうのんびり喋ったゆいちに今度は視線が集まる。百田くんのように「見える」タイプだなんて今まで全然知らなかったというか、割と彼氏とかスイーツとかこの中でも一番インスタ映えする生活を送っていたゆいちなので、イメージとかけ離れすぎていてびっくりした。
「信じてもらえないっぽい話すんのって疲れるでしょ〜? でも私はルリのこと信じるよ〜。最近街の雰囲気ほんとよくなったもんね〜」
「あ、ありがとう……信じてくれて」
「え、ちょ、待って、あたしも別にルリち嘘付いてるとか思ってないかんね?! そういうふざけ方するタイプじゃないの知ってるし、ゆいちも言うんだったらそうかもって思うけどただ脳が追いつかないから!」
「みかぽんもありがとう」
「のんさんもそう思うっしょ?」
「ごめん……私はちょっとわかんない。幽霊とか神とか信じてないし」
私にとっては受け入れてくれた雰囲気は嬉しかったけれど、のんさんにとっては言いづらい雰囲気になってしまっていたらしい。気まずげに、でもきっぱりとのんさんは言った。
「神様とかって、ありえないし。ルリのこと嘘付きってわけじゃないけど、常識的に考えておかしいと思う」
「うん、わかるよ」
「ごめん」
「謝らないでいいから。こっちこそごめんね」
無理して理解あるふりをしないで、自分の気持ちを正直に言ってくれるのがのんさんらしいと思った。寂しいけれど、そういう人もいる。無理矢理わかってほしいとも思わないし、私のことを変だとか怖いとか思われても仕方のないことなのだ。
それでも気持ちがしぼんでいると、ゆいちが元気よく店員さんを呼んだ。
「すずめくん、何飲む〜? せっかくだしあたしらもなんかデザート追加しよ〜」




