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味噌汁・般若・マリッジブルー4

「百田くん、もう体調いいの? 朝練も出てたんだってね」

「もともと体はなんともないからな」


 テスト前だということもあって、百田くんは2日休んだだけで出てきた。ものすごく久しぶりに、私は百田くんとノビくんの3人で食事をしている。


 1日行方不明になった百田くんは家族に心配と説教と看病でもみくちゃにされ、更にノビくんも居座っていて学校にいたほうが休めたと愚痴っていた。ノビくんは百田くんの器の大きさに感謝して1日3回くらいは礼拝すべきだと思う。

 お見舞いの品をミコト様に相談したら「土地で取れるものを食べるとよい」と言われたのでお屋敷で取れたみかんやらブルーベリーやらを手渡そうとすると、百田くんも私に立派な巨峰と梨の詰め合わせが入った手提げを渡してきた。手提げを開けた途端に肩にいたすずめくんがかつてない勢いで突っ込んでいき、梨の上で座り込んでいる。


「え、なにこれ」

「助けてもらったんだからお礼はきちっとしとけって親が」

「そんな、別にいいのに。ありがとう」

「借り作っとくだけだと怖いしな……」

「おやお前らウケんだけど。お土産交換って井戸端会議かよ! オレにもみかんくれ」

「馬鹿は黙ってろ」


 ノビくんは私が持ってきた手提げのみかんを勝手に取って食べ始め、百田くんもひとつ取り出しながらもスパンと頭を叩いていた。すずめくんが羽ばたいていったので怒っているのかと思ったけれど、手の中から一つみかんをもらって満足気にしていた。

 百田くんはあのお屋敷の主である神様が出てきた瞬間に気を失って、それからのことはほとんど覚えていないそうだ。帰り道のことにも言及されなかったので、その気遣いに甘えてなかったことにしておく。


「うちの本堂の前にでっかい石像が来たっつって大騒ぎしたらしいんだけどな。何か愛想が良い狛犬で撫でくりまわしたっておふくろが言ってた。あとはノビがうるせえのと熱でダルかったくらいか」

「獅子ちゃんはサービス精神に溢れてるからね……」

「いやオレがいたせいでモモパパの怒りが分散されてたっしょ?」


 隙を作るから連れ去られたんだと説教するお父さんを、ノビくんは色々と宥めていたらしい。ノビくんが悪魔であることは百田くんの家族にも秘密だろうし、神隠しに遭ってたんだし……みたいな話題でノビくんがどうやって宥めていたのか気になる。自分も傷だらけだったわけだし。立ち回りの上手な人だから口八丁でなんとかしてたんだろうけど。

 ノビくんの怪我は神様とやりあった後なので治りが遅いけれど、人間としてすぐ治るのはおかしいので都合がいいと本人はケロッとしている。


「つーかミノさん、ますますカミサマの気配がねっちょりしてんだけど。もうマジであれなの? 結婚?」

「いや、うんまあ……そうなりそうな感じというか」

「マジかウケる。とうとうミノさんもコッチ側かー。モモもどう? オレと一緒に悪魔やんね?」

「やんねーよ馬鹿が」

「いって! 本気で殴るのやめて!」

「コッチ側って、悪魔なんかと一緒にしないで欲しい。真剣に」

「ミノさんも言葉の暴力すげえからね? 悪魔だって一生懸命生きてんだからね?」


 腹を押さえたノビくんが、むくれてジュースを買いに席を立った。差別は良くないのかもしれないけれど、本当に一緒にしないで欲しい。特にミコト様と悪魔を同じ括りにするのはやめて欲しい。


「箕坂、お前本当にそれでいいのか?」


 百田くんは心配そうに私に問い掛ける。すずめくんがヂヂヂヂッと怒るように鳴いたけれど、真剣な顔は崩さなかった。小さな羽毛を手のひらで覆いながら私は頷いた。


「神の領域に入ったら、もう元には戻れないんだぞ」

「うん。まあ、そこは不安がないわけじゃないけど。ミコト様は決心するまでは人として暮らしていいって言ってるし、ほら、私もう家族もいないわけだから」

「……ごめん、何もしてやれなくて。オレが親に掛け合ったりしてれば、箕坂のお母さんが亡くなったときも力になれたかもしれない」

「百田くんが責任感じることないよ! 十分助けてもらったし、学校でも色々気使ってくれてたでしょ? それに私がミコト様といっしょにいたいと思ってるから」


 別にムリヤリ神隠しされるわけじゃない。ただの同級生で、未成年なのにそこまで百田くんが思いつめることもないし、心配してくれるのは嬉しいけどそんな風に思ってほしいわけじゃなかった。


「普通の進路でもいつかは違う道に行くんだしさ、遠くに引っ越すくらいで考えてくれたらいいよ」

「そういうレベルじゃねえだろ……」

「まあそうだけど。でもさ、老けることがないって女子的には結構メリットあると思うし。しばらくはまだ学校とか行くつもりだし、ミコト様も街に遊びに行くくらいは許してくれると思うから」

「……まぁ、そうだな。祝い事だしな」


 百田くんがちょっと笑ってくれたので、私もホッとした。気にしてほしくなくて言ったことだけれど、確かに加齢という美容の敵と戦わないですむというのは割と嬉しいことでもある。きっとそういう風に、暮らしているうちにいいこともいっぱい見つかるようになるだろう。今はまだ不安しか見えなくても、実際に暮らしてみればなんともないかもしれない。それどころかすごく楽しい毎日が続くかも。ミコト様もずっと一緒にいるわけだし。


「そーそー寿命ないってサイコーだかんね?」

「でかい声で言うな馬鹿」

「え、ひっど。ジュース買ってきてやったのに。ミノさんはイチゴミルクね。モモはゴーヤジュース」

「殴るぞ」


 紙パックのジュースを渡してきたノビくんにお礼を言う。イチゴミルク甘くてちょっと今の気分じゃないし、ゴーヤジュースが気になる。百田くんに交換を頼もうか悩んでいると、ノビくんが真剣な顔を近付けてきた。


「ただし、この先生きていく上でミノさんに忠告がある」

「な、なに」

「遊び放題とか思ってマジで数十年単位で遊んでると、飽きるから。遊ぶのすら飽きるから気を付けて。オレテーブルゲーム関係趣味だったんだけど、今はマジで嫌いになったから。好きなものだからってやり続けるとほんと嫌いになるから気を付けて」

「なにそれすごいどうでもいい」

「お前今でもネトゲ死ぬほどハマってんだろ」

「いって!!」


 何年生きてもバカは治らないんだと思うと、ある意味心配ではあるけれど。






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