人もすなるロマンティックというものを6
「時間がなくて簡単なものになってしまったが……気を付けて行くのだぞ、何かあればすぐに呼んで、ああついて行ってしまおうか」
「大丈夫です、ありがとうございます、行ってきます」
「あ、待っ……せっ……いや、その、い、いってらっしゃい……」
ミコト様の作った朝ごはんを食べ、ミコト様の作ったお弁当を持ち、スズメ姿のすずめくんと獅子ちゃんを連れて、蝋梅さんに車で学校まで送ってもらう。昨夜きちんと百田くんを送り届けたらしい獅子ちゃんはいつものサイズに戻っていて、車の後部座席に顎だけをのせてお行儀よく撫でられていた。
「うっわー。ミノさん超神々しーんだけどー」
人を懐中電灯か何かのようにマブシーと腕で遮りつつ、ノビくんは大きな声を出した。ミコト様のご神力がどうのこうのしたというのが、やっぱり悪魔であるノビくんには丸見えのようだ。ちなみに周囲の人がチラチラ見てくるけれどそれはノビくんがオーバーリアクションだからのようで少し安心する。
「ていうか、ノビくんどうしたの」
「え? 何が?」
「いや、満身創痍じゃないですか……」
街の不良に集団リンチでも受けたの? と言うくらいあちこち傷だらけになっていて、湿布やら絆創膏やらガーゼやらで顔の露出面積が半分ほどになっている。首元や手足も同じような状況なので、全身すごく痛いんじゃないだろうか。平気そうに歩き出すのがむしろ不思議なほどである。
「あーコレ? なんかミノさん達つけてって犯人わかったから、ちょーっと噛み付いてきた」
「何してるの?」
「やっぱさー、やっちゃいけないことするとイヤなこと起こるって教えといたげたほうがいーじゃん? 危うく死にかけたけどひっさびさに楽しかったわー」
「ノビくんってバカなの?」
好意的に見て百田くんを攫った奴らに仕返ししたと考えても、自分より圧倒的に強い相手、しかも神様相手に悪魔が何か仕掛けるだなんて自殺行為も良いところではないだろうか。むしろ軽傷に見えてきた。
ノビくんは結構軽いノリで生きているというか、上手いこと自分の不利益を被らないように立ち回っているような気がしていたので自分からそういう危険に突っ込んでいくところがあるとは驚きだ。
私は呆れて何も言えなかったけれど、すずめくんはノビくんの肩に飛んでいってふっくらしていたので何やらお気に召したらしい。自撮りされそうになってすぐ私の方に戻ってきたけれど。
「百田くんは今日お休みかな」
「休み休み。あんな状態じゃー3日くらい出てこれねーんじゃねーかな? オレも休みたかったのに代わりにノート取っとけっつってさーひどくね?」
「ノビくんは自業自得だしねぇ」
なぜそんなに百田くんの状況に詳しいのかと言うと、ノビくんは昨日から百田くんの家に泊まっていたらしい。怪我だらけのままで様子を見に行ったら、百田くんに怒られ、百田くんの家族に怒られ、怪我の手当てをされて食事とお布団も甘えてきたそうだ。
「ノビくん……あんまり迷惑かけちゃダメだよ」
「オレしっかりオツトメとか手伝ってっし? 親同士も知り合いだしヘーキヘーキ」
倒れるほど神様の神気にあたっていたのに、へろへろで帰ってみるとこんなに迷惑なやつがいるとか、百田くんは本当に踏んだり蹴ったりである。何かお見舞いの品をプレゼントしたい。
「んなことよりさー。ミノさんやっぱそっち行っちゃうわけ? まだ人間の範囲なの?」
「えっ、別に人間ですけど……?」
「限りなくカミサマっぽい雰囲気になってるけど」
「まじでか」
格の高い神様と目が合ったせいで何だか繋がりを持ってしまった私を、ミコト様が断ち切るために自分のご神力を吹き込んだのだと説明すると、ノビくんはなるほど道理でと頷きながら私の周りをぐるぐるする。
「若干滲み出してるからほっとけば元に戻んのかね? あー、こことここ、出やすくなってるわ。しっかしこんな面倒なことしないで、パッパと取り込んじゃえばいーのにな。神様ってわっかんねー」
「ミコト様は私に対してめちゃくちゃ優しいから」
「うっわ! ミノさんがノロケた!」
「いや別にノロケてないし」
ミーノさんがー、超ノーロケてるーと歌いながら教室に入ったノビくんのせいで、中にいたみかぽん達が敏腕刑事みたいな目になっていて、その日は一日中繰り返し尋問を行われることになってしまった。
ノビくんはもう少し痛い目を見たほうが良かったのかもしれない。




