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おんぼろ社の大豪邸2

 私をここまで連れてきた男の子は、豪邸に入って廊下をまっすぐ行ったところで「じゃー僕は準備がありますんで!」とすたこら走って行ってしまった。

 代わり現れたのはびっくりするほどの美女コンビである。


「……こ、こんにちは……」

「まああ、かわいい」

「かわいいわ」

「濡れてるわよ」

「寒いわね」

「早く洗いましょう」

「すぐ綺麗になるわ」


 私よりも少し背が高い2人は、全く同じ顔をしていた。

 黒目がちな目は一重ですっと涼しげで、鼻は通っているけど大きすぎない。額に黒くて丸い眉を描いていて、薄い唇は形が良く芸能人でもちょっと見ないくらいのアジアンビューティーだった。

 髪の毛はとても長く、くるんと束ねてなければ床に付いてるくらいで、服装も巫女っぽい服の上に着物を重ねて引きずっている昔の着物姿だった。全体的に国語便覧で見たような平安時代っぽい雰囲気である。


 たおやかな雰囲気に似合わずこの人達も力が強くて、両側からぐいぐいと腕を引っ張られた先はユドノ、つまりお風呂だった。脱衣所まで連れてこられたかと思うと、にこにこしながら服を剥いでいく。


「ちょっ……待っ……」

「変わった服ねぇ」

「でもかわいいわ」

「あら引眉がまだね」

「今はしないのよ」

「早く温まりましょうね」

「風邪を引くといけないわ」


 私の意見はまったくこの人達に影響をあたえることなくスルーされ、あっという間に裸に剥かれると浴場の方へと追い立てられる。引きずっている着物を脱いで足元を縛った美女ズももちろん付いてきた。


「えっ……ここは……」


 平安っぽい建物だったのに、浴場はタイル張りだった。手前にシャワーや蛇口のある洗い場が付いていて奥には大きな浴槽がある。そして壁には富士山の絵。並べられている桶は黄色い。

 どういうこと。


「すいませんちょっと待って」

「すべすべねえ」

「温かいわね」

「あの自分で洗」

「髪はこれね」

「沢山泡が出るわ」

「聞いて」

「人間はかわいいわね」

「かわいいわ」


 にこにこ楽しそうな美女に芋か何かっぽく洗い立てられ、温かい湯船でようやく開放された。美女2人はフチの向こうからにこにことこちらを見ているのであまり開放されていはいなけれど、とりあえず会話が出来るくらいには余裕が出来たのだった。


「あの……あなた方は人間じゃないんですか」

「人ではないわ」

「变化して主様にお仕えしているのよ」

「私たちが何だかわかるかしら?」

「当ててほしいわ」

「わかりません」

「もっと考えてみたらきっとわかるわよ」

「あなたもきっと知っているわよ」


 ヘンゲというくらいだから、キツネとかだろうか。そう思って聞いてみてもちがうわひどいわとにこにこ言われた。


「アルジサマってどういう人ですか」

「主様は優しい方よ」

「とても優しいわ」

「ちょっと優しすぎるわね」

「ちょっと頼りないわ」

「あの……何で私はアルジサマに呼ばれてるんでしょう」

「ルリさまがそう願ったからよ」

「主様が叶えたからだわ」

「えっ? 何で名前知ってるんですか」


 社に入ってからはただグイグイ引っ張られてただけなので、自己紹介もまだしていない。それなのにルリという名前を知っていた美女に驚くと、にこにこと2人で笑いあっている。


「もちろん知っているわ」

「みんなあなたを知ってるわよ」

「お社にお願いに来ていたわね」

「何度もお願いしていたわ」

「主様はずっと気にかけていたわよ」

「だからみんな知ってるのよ」


 みんなって誰だろう。

 つまり神社の主であるアルジサマは私がお参りしていたことを知っていて、それでこの美女ズも私のことを知っていたということらしい。


 あんなに小さくてボロい神社なのに、ちゃんと神様がいてお参りしていることに気付いていたんだ。神社に来たら手を合わせていたけれど、本当に神様がいると思ってそうしていたわけではない。何となく居心地が悪くて、逃げ込んでいることを見つからないようにと祈っていただけなのでちょっと後ろめたい。


 大浴場から上がるとこれまた普通のバスタオルで体を拭かれた。


「何でここだけ現代風なんですか?」

「主様がそのほうが良いだろうって仰ったのよ」

「主様は今の人間の暮らしを知らなくて悩んでいたのよ」

「今時ふのりなんか使わないのねえ」

「いい匂いのする髪はいいわね」


 よくわかんないけど、リフォームしたらしい。

 神様もリフォームとかするんだと感心しているうちに髪を乾かされ、着物を着せられる。何かよくわからない手順で色々と重ね着していって、最終的には美女2人と同じような床に引きずる着物を羽織って完成らしかった。髪の毛は肩くらいまでしかない上にアジアンビューティーと並ぶとどう考えても七五三のスタジオ撮影にしか見えない。


「よく似合っているわ」

「かわいいわ」

「どう見てもコスプレでは」

「主様も喜ぶわ」

「主様もきっとかわいいと思うわね」


 にこにこ笑う美女に両手を引かれて歩いていると、男の子が走ってやってくる。


「似合ってますよ〜。綺麗になってよかったよかった。お前達もご苦労だった。下がりなさい」


 美女2人はにこにこと男の子に頭を下げる。男の子に腕を引っ張られながら振り向くと、にこにこと見送っていた。

 今の言葉からすると、この男の子のほうが上司みたいな言い方に聞こえた。序列に年齢は関係ないのかもしれない。


「早く主様にご挨拶しましょう」

「あ、はい」


 そういうちょっとした疑問を口に出す前に急かされる。神社に住んでいる人達は割と強引に物事をすすめるタイプが多いのかもしれないと思った。


「あの、私神様とご挨拶とかしたことないんですけど、どうしたらいいんですか」

「主様はあんまり礼儀とか気にしないタイプなので大丈夫です」

「そんな適当な……」

「待ちに待ったルリさまなんですから、例え失礼なことしたってきっと怒りませんよ」


 そういう問題ではないような気がする。

 待ちに待っていたらしい。心当たりがないけれど、とりあえずアルジサマはしきたりとかに厳しくなさそうだった。


 やがて男の子は大きな広間へと私を引っ張っていく。

 大きなお屋敷は壁が少なくて、外の庭はもちろん屋敷の中も遠くの方まで見れる。その中で大広間は御簾が垂らされて区切られていた。中に入ると、さらにその内側を区切るように御簾が下がっていて、広がるその薄い壁の中央あたりの位置、御簾から離れたところに座布団がひとつ置かれている。

 その座布団に座るように男の子は私を誘導して、それから一歩御簾の方へ踏み出してから自分も座り、御簾の向こうへと小さく声を掛けた。


 どうやらアルジサマはこの中にいるらしい。






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