やや乱れて妖精3
「帰ってはいらっしゃってますよ。今日も少し前にお出かけになられましたけど」
上座不在の朝ごはんで、すずめくんがトーストをかじりながら言う。
「あちこち呼ばれるので、お召し替えと短いお休みしかされていないみたいです」
「ブラック企業の社員みたいだね……」
ミコト様は神様の中でもそこそこ力のあるほうらしい。更に優しくて気さくなのであちこちの小さな神様から相談事や頼み事を持ち込まれることも多いそうだ。今まではそういうのには手紙でやりとりしていたけれど、自分より力のある神様にお呼ばれされると流石にそうはいかないらしい。なんやかんやと駆り出され、懐かしい顔だと呼び止められて、ミコト様はあっちこっちに引っ張りだこなのだそうだ。
「ミコト様にお傷のあった頃には穢れだ何だと寄せなかったようなお方も手のひらを返して、すずめは好きじゃありません」
「神様にもそういうタイプがいるんだね」
今日のお弁当はミコト様が作っていったものらしく、手提げのランチバッグに手紙が入っている。相変わらず長々としているけれど、読めないながらにどこか急いで書いたような勢いも感じるものだった。
「カレーもお作りになって行ったそうですよ」
「いい匂いしてるもんね。じゃあ今晩はハンバーグカレーにする?」
「なんですかそれは!! すずめも食べたいです! どうせ今日も主様とめじろは遅いのでしょうから、皆のひみつのメニューにしてしまいましょう!」
「いいねえ」
ミコト様のお世話をしているめじろくんもお供としてついて回っているので、すずめくんも最近はどこか寂しそうだ。
朝起きると学校に持っていくお弁当が出来上がっていたり、帰ってくるとリビングにおやつが置いてあったりするので、すずめくんの言う通りにミコト様はお屋敷に帰ってきてはいるようだ。だけど日中は学校に行っている私と絶妙に時間が合わないようで、しばらく顔を見ていなかった。日に日に手紙が分厚くなっていくような気がするけれど、読めないのでどうしているのかもよくわからない。
「ルリさまもお寂しいでしょう? 今度お会いしたら主様に文句を言いましょうね」
「ねー。今日は帰りに寄り道する? 何か美味しいスイーツでも食べようか?」
「楽しみです!」
ふくふくと膨らんだスズメ姿になったすずめくんと学校に行って、それから蝋梅さんにメールをして今日のお迎えはナシにしてもらう。放課後には子供姿になったすずめくんと電車に少し乗って、前にテレビで話題になっていたカフェに行くことにした。
「うわぁー。これもパンケーキなのですね! ルリさま、とってもふわふわしてます!」
「美味しいねえ。これはお持ち帰りできないしねえ」
「写真撮って主様に自慢します!」
インスタに載せてめじろくん経由で自慢すると映える角度を探してパシャパシャと写真を撮るすずめくんを眺めながらふわしゅわのパンケーキを食べていると、つんつんと肩を叩かれた。
振り向くと、少し上の年代の優しそうな女性がニコニコと笑っている。その腰のあたりには小さい子がぎゅーっと抱きついていた。
「あっ」
「ルリちゃんでしょ? 久しぶりー! 奇遇ねー!」
私の肩を叩いたのは、夏祭りのときに出会った隣町の神社にいる主婦系神様だった。




